第七節 臨床に応用できて価値がある 再生医療への本格的挑戦
慶應義塾大学再生医療リサーチセンター、岡野栄之教授についてより深く知って頂くために、彼のこれまでの研究人生(肖像)について、ドキュメンタリー形式のシリーズで綴らせて頂こうと思います。
第七節 臨床に応用できて価値がある、再生医療への本格的挑戦
「あんたの研究も臨床に応用できてなんぼのもんだ」
1997年、筑波大学から再び大阪大学に籍を移し、当時医学部長であった岸本忠三氏に挨拶に行くと、こうけしかけられた。
岡野氏は「ハァ……」と返答し、歯切れが悪かった。
基礎研究一筋の自分に臨床ができるのかと危惧したのだ。だが神経機能解剖学研究部の教授としてヒトの脳の解剖を教え始めると、新たな研究への閃きが生まれた。臨床応用への道を開いたのはカナリアの歌だった。
「てんかん患者の脳で研究したいという申し出がありました」
コーネル医科大学のSteven Goldman氏である。カナリアが季節ごとに新しい歌を覚えるのはニューロンが新しく作られるからという研究をした教授は、Musashiを用いて成人脳に幹細胞があるかどうか調べようと共同研究を提案してきた。
実際に、てんかん患者の脳から切除した標本では脳室の近くでMusashiが発現し、培養すると分裂し、ニューロンとグリア細胞を発生させた。
すなわち、成人の脳には幹細胞があったのだ。
「ヒトの脳も再生できるのです」
脳が蘇るそのメッセージに世界が衝撃を受けた。論文は今日まで750回超引用され、専門誌だけでなく新聞や一般誌からも岡野氏の元に取材が殺到した。見知らぬ脊髄損傷の人から手紙も届いた。「私を治してください」と書いてあり、車椅子のK氏を思い出した。
決定打となったのは妻からの一言。
「人の役に立つことをやりなさいよ」
2001年4月、古巣である慶應義塾大学医学部生理学教室教授に就任し、再生医療への挑戦を本格化していく。
慶應をその舞台に決めたのは、亡くなった母への誓いもあったのではないだろうか。
【ドクターズマガジン2021年8月号】より
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投稿者プロフィール

- Project Associate Professor
-
Satoru Morimoto, M.D., Ph.D.
Keio University Regenerative Medicine Research Center (KRM)
Project associate professorResearch Gate Building TONOMACHI 2, 4B, 3-25-10, Tonomachi, Kawasaki-ku, Kawasaki-shi, Kanagawa,
210-0821, Japan
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