論文までの長い道のり
中国からの留学生、林(リン)さんの論文がJCBで発表された。非常に長かったし、疲れました。。。私のPIとしてのキャリアの中でもベスト(ワースト?)3位以内にランキングされる長期戦だった。学生さんの論文を通すのは結構大変なのである(しかも当人は既に中国に帰ってしまっている)。セカンドオーサーの須山さんには最後まで全力でサポートいただいたことに心からお礼申し上げます。
プルーフは恐れていた通り、休暇直前日に来てしまった。なおかつ、最後の最後に、生データだと信じていたのが違っていた!→ChemiDocから発掘、NGSデータをDDBJで公開設定するためのデータスペックがわからん!!→リナックスサーバから発掘などなど、あるあるである。休暇中のはずなのに、アメリカとのやりとりで真夜中まで最終作業に追われてしまい、休んだような休んでないような。。。
あちこちで書かれていることだが、今は私たちが学生の頃よりもずっと論文を通すのは難しくなっている。昔は「data not shown」なんてフレーズが許されていた。今からするとあり得ないのだが、本当の話である。リバイズに要求される実験の質と量が半端ない。なんとかレビュワーに納得していただける論理を捻り出すのも大変である。通ったら通ったですべての生データを出さなければならない。もちろんスタッフであれば、経験があるので最初からきちんと論文を作り込むのだが、院生だとやはり認識が甘い(指導不足については今後の課題である・・・)。研究科にもデータを提出しなくてはならない。広報とのやりとりだってある。なんだかんだと大変である。かつ、正直言って、論文を書く頃にはその研究は完成した仕事なので、研究者にとっては戦後処理という感じがしなくもない。しかし論文として世に出すのが最も大切なプロセスであるのは間違いないので、ここは頑張るしかない。
ともあれ、今回、2009年に報告したTudorドメインタンパク質であるTejas (ハエのTdrd5ホモログ)の続報論文を世に出せて大変ホッとしている。Tejasとはサンスクリット語でSunshine、つまり、その変異体ではヌアージュ(雲)がなくなる=Sunshineと名付けたのだが、なかなかにウィットに飛んでいてとても気に入っている。名付け親は私のシンガポール時代のインド人女子学生で、博士号を取得後、分野を変えた彼女は今ではインドの国立免疫学研究所でPIとして活躍している。インドでも女性PIは少なく、シンガポールでの新米PI時代を共に戦った同志として、彼女に心からの感謝とエールを送りたい。
その論文を出してから、気がついたらもう10年以上も経ってしまっていた。このタンパク質がヌアージュを構築する上で、遺伝学的に上位に来るのはその頃からわかっていたが、シンガポールで学生と見つけた因子の機能の一端を、またもや日本で学生と一緒に解明できたのはシンプルに嬉しい。CRISPR-Cas9がショウジョウバエで導入された頃にラボで扱っている因子を片っ端からタッグして観察したことが契機となった仕事でもある。ヌアージュという非膜オルガネラの構築原理に迫る仕事でもあり、この学術変革領域にふさわしい論文ではないかと思う
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