第5回領域班会議に参加した大学院生の投稿
はじめまして。横浜市立大学分子生物学教室(高橋秀尚教授)の大学院生の安井七海と申します。先日、鈴木秀文講師の同伴者として第5回領域班会議に参加させていただきました。
当研究室では主に、RNAポリメラーゼIIに結合して転写を制御するメディエーター複合体、なかでもそのサブユニットのひとつであるMED26についての研究を行っています。MED26は天然変性領域(IDR)を有しており、遺伝子上でMED26のIDRによって液滴が形成されることで、転写に関わる種々の因子を液滴内に取り込み、転写の調節を行っていると考えられています。この研究は公募班2期メンバーである上司の鈴木さんが行っているもので、そのご縁で自分も今回の第5回領域班会議に参加させていただく運びとなった次第です。かくいう私は、同じくMED26について研究を行っておりますが、非ドメイン部分の研究ではなくN末端ドメインの研究を行っております。班会議のワールドポスターも、恐縮ながら、全編がっつりドメインの内容で作って持っていきました。どのような反応をされるのか正直不安ではありましたが、大変ありがたいことに皆様に興味を持って見ていただき、大いにディスカッションさせていただきました。
オーラルセッションでは、この領域の研究内容の幅広さに驚かされました。全く異なる分野の研究が集まっているような、でもどこか共通しているような、不思議な感覚でした。なかでも最も印象的だったのは、特定の構造を取らない分子の挙動をシミュレーションすることができるという発表でした。そもそも、そのようなシミュレーションをする研究が存在すること自体に大変驚きました。また、非ドメインという共通ワードをもとに幅広い分野の先生方や学生たちが集まったこの班会議だったからこそ、似たような研究内容の人がLLPSのように集まってくる分子生物学会では見られないような、視野の広い議論が交わされていたのではないかと感じました。懇親会では、この機会がなければおそらく一生お話することが叶わなかったであろう先生方ともたくさんお話させていただき、今後の研究人生において非常に大きな財産になりました。(それから、おいしい日本酒もたっぷり堪能させていただきました! 写真はお土産として買って帰った日本酒です。自分の晩酌用です。)
大変恐縮ですが、以下、私個人の話を書かせていただきます。私は2022年に横浜市立大学医学部を卒業し、同年4月から大学の附属病院で初期研修を開始しました。横浜市立大学では、研究室が入っている棟が附属病院と同じ敷地内にあるため、附属病院で初期研修を行う場合は大学院も並行して行ってよいというシステムがあり、私はそれを利用して初期研修開始と同じタイミングで大学院に入学しました。その頃から臨床よりも研究の方に強く興味を持っていたので、初期研修中も常に研究に触れていられるのは自分のモチベーションの維持という意味でとても良い環境だったと思います。ただ、お給料を頂いている以上は初期研修をないがしろにするわけにはいかないので、どうしても研究に割く時間と体力が十分に確保できず、もどかしい思いも抱えながら2年間を過ごしました。初期研修が終わってから現在までは、生活費稼ぎのためのバイト以外の時間は研究に充てることができるようになり、これまでとは段違いのスピードで実験ができているのでとても充実した毎日を送っております。
ところで、医者や医学生は研究に対してやたら高尚なイメージを抱いているような気がします。研究をやっていることを附属病院の研修同期や上の先生方に話すと、「頭いいんだね」と言われたことが何回もあります。研究内容を話したわけでもないのに、基礎研究をやっているから頭がいいだなんて、なんとも意味不明な思考回路だと思いませんか。研究をやったことがないにも関わらず研究を敬遠する、食わず嫌いのような医者や医学生がやたら多いという今の状況は、非常によろしくないと思っています。臨床の現場には研究すべき課題がきっとたくさん転がっているのに、今のままではその課題が見て見ぬふりをされ続けてしまいます。臨床の現場で診療業務に追われている医者が、課題を見つけ、それを自分の手で研究して解決していくというのはかなり難しいでしょう。そのため、課題を見つけたらそれを研究者と共有し、協力して解決していくのが良いのではないかと私は考えています。多くの医者や医学生に研究のことを正しく知ってもらい、基礎研究に対する謎のハードルを下げ、臨床現場に転がっている課題を研究へと繋げられるような、橋渡し的な人材になれたらいいなと思っています。
そんな大層な将来ビジョンを漠然と描きながら、まずは学位取得という目の前の目標に向けて日々実験を頑張っております。今回の班会議に参加したことで得た経験と知識を糧に今後も精進してまいります。このたびは貴重な機会をいただき、ありがとうございました。