ひとつの分子から見える美しい景色
このたびは本領域研究にご採択いただき、誠にありがとうございます。私は相分離研究の専門家ではありませんが、2000年以降Wntシグナル伝達経路に関わると信じられていたクロマチンリモデリング因子CHD8の研究を行ってきました。2004年にはすでにCHD8のノックアウトマウスを作製し、発生初期にマウス胎仔が死亡することから、CHD8が胚発生に必須な遺伝子であることをつかんでいました。この発見が、私の人生を大きく変えることになるとは、当時は思ってもみませんでした。
ところが、2012年に自閉症患者の大規模なゲノム変異検索が行われた結果、CHD8が自閉症において最も高頻度に変異している遺伝子であることがわかりました。私は当時すでにCHD8ノックアウトマウスを有していたため、すぐに行動解析を行ったところ、このマウスが自閉症様の行動異常を再現することを明らかにしました。その後、特に自閉症の分野では、CHD8は俗称として「Top autism gene」と呼ばれており、大きな注目を集めることになりました。
一方で、このファミリー分子はがんと強い関連性があり、種々のがんで変異が認められています。私はCHDが相分離凝集体を形成し、がんにおけるホットスポット変異を模倣した変異体は相分離凝集体を形成しなくなることを発見しました。そこで本研究では、CHDによる液-液相分離とその破綻ががんを引き起こすメカニズムを分子レベルで明らかにすることを目指します。この分子の研究を通じて、今までに見たことのない美しい景色が見えてくることを楽しみにしています。
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