お手軽透析法と目利きのチカラ
唐突ですが、サンプル中に残存している微量な夾雑成分を除きたくなったこと、ありませんか?
私の場合、RNAやDNAを質量分析で測定する機会が何かと多くあります。核酸の品質をUV吸収波形でチェックし一見問題がなさそうでも、波形にほぼ影響しない共存物(Naイオンとか)は残っていて、いざ分析してもうまくデータが取れないことは案外多いものです。
今回、そういったサンプル(もちろんタンパク質にも使えます)を簡便に前処理する方法として「発掘」され、一部関係者(?)の間で使われている「ドロップ透析法」を紹介します。
(私事ですが今年から拠点を変えて新たに研究環境を立ち上げているところ、思った以上に時間がかかっており、色々ご迷惑をおかけしている関係の皆様方には大変すみません。こういった形で手順をブログに残しておけば、読んでもらうことで伝わることも多く、大変よいですね)
ドロップ透析のセットアップについて特に難しいことはありません。
透析液(超純水)に浮かべたメンブレンフィルターに5~20 μLのサンプル溶液をスポットして乗せます。写真はサンプル溶液(色水でデモ)を2つ乗せた場合の例です。このまま30分~1時間ほど静置したら、回収して終了です。
これで完了です!分析サンプルの前処理以外にも使いどころがあると思うので、興味のある方は是非お試しください。
最後になりますが、今回の方法は https://doi.org/10.1016/0003-2697(80)90477-7 等の元ネタがあり、当時も今もどこかしらで使われている手法と思われ、特に私のオリジナルではありません。そしてこの元ネタの「発掘」も、私ではなく前所属メンバーの方によるものです。
簡便で効果的なテクニックを目利きするセンス。自分なりに少しでも持っているとよいなあと常々思っていますが、普段は教わることの方が圧倒的に多く、中々難しいと感じています。
ここからは実際にやってみたい方向けの追加情報です:
フィルターはポアサイズが0.05 μm以下くらいの小さいものを使います。ミリポアで0.025~0.05 μmのMCEフィルターがあります(VSWP09025など。フィルター径と入数が違う選択肢あり)。フィルターは一辺3 cm程度に切って使うと取り回しがよいです。
経験的にはmiRNAやPCRプライマーくらいの長さでも回収率は高く、ポアからの流出はほぼしてなさそうです。
核酸だけでなく、フィルターに吸着しない性質であれば、タンパク質の溶液にももちろん使えます。
フィルターを浮かべる容器は、未使用の培養ディッシュなど大体何でも使えます。プレートサイズの深型リザーバーも取り回しがよいです。きれいに使えば再利用も可能です。
サンプル溶液は、ドロップ同士の間隔を離して数スポット乗せられます。サンプルの数に応じて浮かべるフィルター片の大きさと枚数を変えます。フィルターを挟んで超純水と確実に接触させます。
ドロップの回収は普通にマイクロピペットでできます。1次回収後のスポット跡を新しい超純水で共洗いして追加回収もしますが、省略もできます。回収時にチップが少々フィルターに触れても案外沈みません。うっかり強く突き立てるとかでなければ大丈夫です。
サンプル溶液の水が透析液側に吸収されてドロップが干上がることがあります。逆にサンプル溶液に透析液が流入してくることもあり、ドロップの体積が変わるだけでなく、場合によりただ希釈されただけのような結果になります。透析液とサンプル溶液の成分の組成・濃度の違いなどで確実なことは言えませんが、浸透圧の影響を受けやすいかもしれません。
ドロップの体積があまり変化しないくらいの方が透析がうまくいっている状態です。冒頭の通り分析の前処理として、量は少ないが無視できない成分を減らしたいサンプルを超純水に対し透析する、という状況では安定した効果が見込めます。
この方法をさらに改変して使っている、などのアップデートがある方は、よければぜひ教えてください。
班会議に出席し、様々な最新の発表に接しました。自分への刺激や励みになりましたし、同様に思う方も多かったと思います。ご準備いただいた荒川さんと関係の皆様方には大変ありがとうございました。鶴岡市の滞在は素晴らしかったです。