古(いにしえ)の論文より

新潟大の矢野でございます。

中川代表より”私のちょっとした実験ハック”というお題がやってきた。班員の皆さんからのノンドメインブログは、組織や生化学的なサンプルの調整法から最先端の情報まで多岐に渡り、非常に面白い。自分でも、ジェノタイピングの際に「マウスの尻尾にProK処理なんてもうしないよねえ」とかシンプルなところで、何か有益な事がないものかと思案しながら、思いついた事を書きます。

それは”古(いにしえ)の論文”を利用し、再検証した私たちの定量実験です。その論文とは、1977年のBiochemistryの”3’-Phosphatase activity in T4 polynucleotide kinase”[1]です。皆様には常識という方もいると思うですが、T4-PNKは、核酸のリン酸化に使う酵素ですが、pHの操作(pH=6.5緩衝液)とATP非存在下という条件では、3’脱リン酸化活性があるというものです。私的には「へえ、そうなんだ、そこは逆!」みたいで面白い。脱リン酸化は、その専門家であるCIAP(Calf intestine allaline Phosphatase)処理を使うのが、基本的かと思います。そこで、私たちは、断片化したRNAライブラリーとリンカーRNAのライゲーション効率を、T4-PNKとCIAP処理で比較するとT4-PNKの方が、1.9倍、その後のライゲーション活性が高いという結果になりました。さらに、5'-アデニル化3'-リンカーRNAを用いたライゲーション活性を、CIAPとT4-PNKで比較すると、4倍ほど活性が高いという結果が得られました[2]。改めて、検証実験の大切さを実感した思い出であります。

文献[2]より

長年の疑問や問題提起であったり、遺伝子だと発現パターンを記した論文など、”いにしえ”の論文を引用する事があるかと思います。どこからが、”いにしえ”なのかはさておき、何かのきっかけで、誰かに”発掘”されるように、”いにしえ”の発見としていつか引用されるような研究ができるのも幸せだろうなと改めて想像しました。

[1] Cameron, V. & Uhlenbeck, O. C. 3’-Phosphatase activity in T4 polynucleotide kinase. Biochemistry 16, 5120-5126 (1977).

[2]Yugami, M., Okano, H., Nakanishi, A. & Yano, M. Analysis of the nucleocytoplasmic shuttling RNA-binding protein HNRNPU using optimized HITS-CLIP method. PLoS One 15, e0231450 (2020).