撥水ペンを使って細胞培養

京都大学の木村です。

我々の研究室では組織や細胞の空間トランスクリプトームを調べる実験を日々おこなっています。この実験には逆転写酵素やDNAプローブといった比較的高価な試薬を使うため反応液を節約したいという思いがあります。また、いろいろな反応をin situでやっていく必要があるため、液交換の手間を減らしてラクしたいという思いもあります。今回はこれらの願望に駆られて生まれた、乱暴だけど試薬の節約ができてラクできる細胞培養方法をご紹介します。

使用するのは任意の大きさの円の描かれた紙とカバーガラスと撥水ペン(我々は熱や界面活性剤にも比較的よく耐えてくれる「ウルトラパップペン S」という製品を愛用しています)。

やり方は撥水ペンでカバーガラスに円を引き、乾いたら任意のコート処理をして細胞を播くだけです(直径5 mmの円では20 µl)。

こんな乱暴な方法で大丈夫なの?という声が聞こえてきそうですが、HeLa細胞や3T3細胞はこの方法で2日間程度は問題なく培養でき、亜ヒ酸ストレスなどをかけることも可能です。何より良いのは、撥水ペンでできた”土手”のおかげで液が外へ広がっていかず、その後に反応させる試薬が10 µlもあれば十分になります。さらに、全てのin situ反応をドロップの中でおこなうことができるので、カバーガラスを取り出して裏返して・・・といった手間が不要になりラクです。

もちろん、チャンバースライドやインサートを使った方が長期培養もできて環境も安定するので良いはずですが、急に思い立って細胞を播いて数時間後には実験したい日もあると思います。そんなちょっとした条件検討を気軽にできるという点では少し乱暴なやり方も一考の価値があるのではないでしょうか?

投稿者プロフィール

木村龍一
木村龍一京都大学 大学院医学研究科 特定助教