光のアトリエ

この度、公募班員として参画させていただくことになりました京都大学の木村龍一と申します。唐突ですが、皆さんは顕微鏡観察がお好きでしょうか?私は大好きです。これまで様々な手法を使いながら研究してきましたが、今でも顕微鏡で観察する瞬間は他のどの実験をおこなっているときよりも胸が高鳴ります。うまく免疫染色できた時はそこにまだ見つかっていない真実があるような気がして時間も忘れて見入ってしまいます。結局はタンパク質の局在情報しか得られないことに気づいて止めるのですが、そのときに暗室でひとり感じた「良い画なのに大した情報量を引き出せない」という感情が今の研究の原動力になっています。

私たちが開発を進めているphoto-isolation chemistry (PIC) は顕微鏡で観察した像にトランスクリプト情報を紐付けることのできる実験手法です。事前に専用の逆転写プライマーを用いてサンプルのRNAをその場で逆転写しておき、光を照射した後にライブラリを作製すると、光の照射された場所に存在するRNAだけがシーケンスされる仕組みになっています。Visium等の手法と比較すると空間網羅性には劣りますが、狙った領域であればPICのほうが高い検出感度を誇ります。また、実験が低コストかつ職人的な技が不要であるのも特徴であり、免疫染色をやるように気軽に実験できることも個人的に利点であると考えています。PICは原理的に回折限界に迫る解像度でRNA解析できる手法であり、独自の光照射システムを構築することで核スペックルといった細胞核内の構造体を対象としたトランスクリプトーム解析も可能となりました。本領域研究では、このような構造体を形作るのに重要なRNAを同定することを目標に、多様なRNAを高感度に検出できる実験系の開発に取り組みます。

本研究で開発した技術はいち早く還元し、領域内の課題解決に役立てたいと考えておりますのでPICを活用できそうな場面に遭遇した際はぜひご相談ください。また、私自身はまだ相分離研究のスタートラインにも立っていない新参者ですが、これから皆さまとの交流を通じて勉強してまいりますのでどうかご指導のほどよろしくお願いいたします。

組織切片に光照射した際の様子

 

投稿者プロフィール

木村龍一
木村龍一京都大学 大学院医学研究科 特定助教