NMR「最後の詰め」と「初回トライアル」
皆さん、こんにちは。「私のちょっとした実験ハック」ということで、私の専門分野である溶液NMRから、もしかしたら皆さんの研究のお役に立つかもしれないGoods&Tipsを紹介したいと思います。
手動遠心機/ 手廻式遠心機
溶液NMRを計測する直前、最後の操作として、直径5 mmの細長いNMR試料管に溶液試料入れる必要があります。NMR試料管の長さを考慮した、先の長い専用のガラスパスツールピペットを用いて、試料管の底の方から溶液を入れていくのですが、どうしても管の壁についてしまったり泡が残ってしまったり…。そんな時に活躍するのが、“手動遠心機/ 手廻式遠心機”です(図左)。ふたがないので、長いNMR試料管がぶつかることなく遠心できます。また手動という手軽さから、NMR試料管であれば1本だけ回しても大丈夫です。一応、試料管を固定するために、キムワイプをつめて中央に試料管がちょうどはまる穴をあけてあります(図中央)。そして、動画(図右)のように、ぶんぶん回して、止まるのを待って、完了です。
私が博士課程の学生の時、知り合いの研究者のラボを訪問した際に、「そいえば、こんな便利なものが留学先のNMRラボにあったヨ」と教えていただき、まさに目からうろこで、かなり感動したことを覚えています(それまでは、NMR管の壁についた試料をロスするのは、仕方ないと諦めていたので)。さっそくボスにおねだりして買ってもらった初号機(?)が、今でも現役です。
NMR試料管以外にも、自動遠心機の規格外のチューブやガラス試験管なども回せますので、さくっと軽くスピンダウンしたい!という用途には、とても便利だと思います。
NMRの“トライアル計測”について
溶液NMRによるタンパク質の構造解析は、馴染みのない方には敷居が高いというイメージがあるかもしれません。確かに、各種3次元計測を組み合わせて、すべてのNMRピークを帰属し、立体構造を決める、となると、それなりに高濃度のタンパク質溶液が必要ですし、スペクトルの解析にかなりの時間がかかります。
しかしながら、ひとまず対象とするタンパク質がNMR解析に適しているか否かをジャッジする“お試し計測”でしたら、さほど大変ではありません。大腸菌発現系があれば、15N標識された塩化アンモニウムを含むM9培地でタンパク質を発現するだけで、精製はいつも通りでOKです。最近では、終濃度として10~20 μMのタンパク質溶液が200~250 μL調製できれば、ジャッジに必要な2次元スペクトル(1H-15N HSQCスペクトル)を計測することができます(下図)。タンパク質の非ドメイン部分は、通常、溶液中において運動性が高いため、シグナル強度が高く、10 μM以下の低濃度でも観測できる可能性があります。また、セグメントに分割したり、部位欠損変異体を作製できる場合は、それらの一連のスペクトルを比較することで、(1つ1つのピークの詳細はわかりませんが、)ざっくりとどの部位由来なのかを推定することもできます(下図)。また、他のタンパク質や化合物との相互作用をみるだけでしたら、添加前後のスペクトルを比較するだけで、「ピークが動いた⇒相互作用あり」「動かない⇒相互作用なし」をジャッジすることができます。NMRは非常に感度が高いので、解離定数Kd=10-6~10-3 Mといった弱い相互作用も検出できます。
このような“お試し計測”を行ってみて、変化がない場合や難易度が高いことが発覚した場合には、そこでストップするのが賢明(深入りしないのがお薦め)です。一方、面白い変化があり、解析が進められそうなケースでは“本気解析”への展開も良いかと思います。
ご興味のある方は是非お声がけください。
投稿者プロフィール
- クマムシ由来の非ドメインタンパク質に着目した構造研究を行います。
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