単純でローテクなものの価値
「稲田君、我々アラカンって言われる歳なのよ、知ってた?」
と久しぶりに会った学部の同級生であるYG教授に言われ、改めて自分の年齢を実感する日々です。2011年の東日本大震災を機に、実験から撤退してしまいましたが、「私のちょっとした実験ハック」との課題をいただきましたので、現在の研究テーマを立ち上げていた頃に工夫した実験手法の例を紹介したいと思います。
2001年3月に、UC BerkeleyのAlan Sachs研での研究期間を終了し、名古屋大学饗場研究室での研究を再開しました。1990年代後半に発見された原核生物でのトランス翻訳から、翻訳とタンパク質分解が協調して作動する翻訳品質管理機構の奥深さを実感していました。当時、真核生物では翻訳異常を感知する品質管理機構はNMD以外、ほとんど注目されていませんでした。単独で研究テーマを立ち上げる機会を得ましたので、終止コドンを欠失したノンストップmRNAの品質管理機構の解析を開始しました。出芽酵母を材料とし、mRNA分解と翻訳制御の両方を解析することを基本軸とし、翻訳効率については古典的なポリソーム解析を行いました。Sachs研での手法をベースに、翻訳活性を維持した状態での細胞素抽出液の調整法を検討しました。その結果、細胞を回収後、液体窒素で凍結させた後に、凍結を維持した状態で物理的に細胞を破壊する調整法を使用することにしました。
以下は実際例(Inada and Aiba, EMBO J. 2005)です。左右2つのサンプル間で再現性が高く、コピペか?と論文最終チェックで、ドキッとした覚えがあります。
細胞回収に関しては、高い翻訳活性状態を維持するには、栄養飢餓状態を避けることが必須であるため、液体窒素で凍らせる直前まで富栄養の培地を除去しない方法を選択しました。詳細は日本語でも以前紹介しましたので(https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784897069241/)、参照していただければと思います。最近、哺乳類細胞でもTransfection後のポリソーム解析を行い、細胞の翻訳状態を確認することの重要性を再認識しました。単純ですが翻訳状態を鋭敏に反映するポリソーム解析はローテクの代表選手ですが、まだまだ現役です。
また機会があれば、ゲノムにコードされていないCAT-tailのアミノ酸配列解析について、端の研究から見えるものーその2ーとして紹介したいと思います。