非ドメイン型バイオポリマー研究と分子シミュレーション

 2024年4月から本領域に参画させていただいている、東京工業大学生命理工学院の北尾彰朗です。原子を単位としたモデルを使った分子のシミュレーション、分子動力学(Molecular Dynamics, MD)やその発展形を主に用いて生体分子システムが働く仕組みを研究しています。

 このようなシミュレーションが様々な研究に使えるためには、①コンピュータの能力が上がること、②モデルが実験値を再現し、予測ができる精度を持つこと、③シミュレーション法によってみたい現象が観察できることが、必要です。①に関しては、20年程前に数百億円した世界最速のスパコンと計算速度で同程度のスペックを持つグラフィックボードが最近では数百万円程度になり、数十万円のパソコンでもそれなりのシミュレーションが実行できるなど、計算がずいぶん身近なものになりました。②に関連したタンパク質のモデルに関しては、以前はフォールドしたタンパク質の性質は再現できるが、天然変性領域の計算には問題ありと考えられていました。しかし、ここ数年の間にずいぶん改良が進み、我々もそれらのモデルを用いて研究を行えるようになりました。RNAのモデルに関しては実験値の再現性でタンパク質よりもモデルの改良が遅れていましたが、近年では様々な改良モデルが提案されるに至ります。③に関しては、研究室で10年ほどかけて開発してきたシミュレーション法であるPaCS-MD (Parallel cascade selection MD)を用いて、様々な現象を観察することができるソフトウエアツールPaCS-Toolkit を公開するに至りました。PaCS-MDは、「並行世界でタイムリープを繰り返す」ようにシミュレーションを行うことで、計算を飛躍的に効率化することに特徴があります。

並行世界でタイムリープを繰り返す

PaCS-MDの概念図

 このような状況の中、シミュレーションによって非ドメイン型バイオポリマーの研究に本格的に取り組む好機が訪れていると考えています。本領域では、非ドメイン型バイオポリマーを対象に、分子動力学やそれらを発展させた最先端のシミュレーションを使って、いくつかの分子が出会って複合体を作り、何らかの機能が発揮され、分子が別れていく一連のプロセスを、過渡的な現象も含めて観察したいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。

 

投稿者プロフィール

北尾 彰朗東京工業大学生命理工学院教授