タンパクは液体状態の集団として働く!?

細胞小器官は脂質膜で区画化した領域に関連する生体分子を集結させ、小器官特有の機能を発揮する。一方、ストレス顆粒や核小体などは、膜がないにもかかわらず、細胞小器官として働く。近年、この膜のない細胞小器官は液-液相分離で生じた会合体であることが分かってきた。液-液相分離とは、分子が低い濃度で均一に溶けている液相と分子が密に集合した液相(液滴)に分かれる現象である。なんと、タンパク質やRNAなどが液滴を形成し、集団として機能していたのだ。

私にとって、タンパク質の液-液相分離は衝撃だった(ちょうど5年前)。一般的に、タンパク質は溶液に溶けて均一に分散した状態で機能する。一方、タンパク溶液を温めると、溶液が濁り、かたい凝集体ができ、冷めても元の透明な状態に戻らない。これはタンパク質が熱変性し、機能を失った状態となるからである。液体状の集合体はいずれの状態とも異なり、新しい機能状態と考えられた。

液-液相分離現象が限られたタンパク質だけに見られるものではなく、一般的なものであるとすれば、単分子機能解析で使っていた天然変性タンパク質p53も相分離するかもしれない。同時期に、マイナス電荷のDNAとプラス電荷のポリリジンを混ぜると、液-液相分離するという論文を読んだ。p53はプラス電荷とマイナス電荷に偏った天然変性領域の両方を持っていたため、p53も液-液相分離するのでは?と考えた。

この仮説を検証し始めてから3カ月後、p53溶液の組成を調整すると、球状の会合体が現れた。さらに、2つの会合体が衝突した後融合する様子が観察でき、p53の会合体が液体の性質を持つことが明らかとなった。予測通り、p53は液-液相分離したのだ。これが私の相分離研究の始まりとなった。生命の相分離ワールドには未解明のことが多い。この領域のメンバーと共に少しでも解明できればと思っている。

投稿者プロフィール

鎌形清人
鎌形清人岐阜大学工学部 准教授
タンパク・DNA複合系の機能や液ー液相分離現象の分子文法を、オリジナルの計測、解析、設計を通して解き明かす。