ウイルス学から迷い込んできました

 この度、非ドメイン生物学の公募班にご採択頂きました東京大学医科学研究所・ウイルス病態制御分野の加藤哲久(あきひさと読みます)と申します。所属講座名の通り、ウイルス学を専門としている若手研究者(のつもり)です。

 私たちは最近、ウイルスゲノムにコードされる非標準的な遺伝子の解読法を確立し、ヘルペスウイルス(図の目玉柄の悪そうなヤツです)の新規遺伝子群を解読致しました。非標準的というだけあって、大部分の新規遺伝子は、既知遺伝子にほぼ内包される形で存在しており、進化上の制限が厳しかったからなのか、ドメイン構造は有さず、俗にいう天然変性蛋白質をコードしているであろうと考えられました。せっかく新規遺伝子を解読したので、どういった生物学的意義を有するのかも、我々の手で明らかにしたいと、目下、機能解析に頭を悩ませていたところ、該当分野のエキスパートが集結する本領域が立ち上がっていることに気がつきました。「これはチャンスだ!」と思い、必死に申請書を記載させて頂きましたところ、幸いにも採択して頂くことができ、大変感謝しております。

 ウイルスというと、新型コロナウイルス一色の時代ではありますが、地球上には1031個のウイルス粒子が存在すると試算されており、ウイルスの多様性は他の生物種を圧倒していると考えられております。そして、興味深いことに、ウイルスゲノムには、既存のデータベースに類似配列がない孤児遺伝子が満載です。偏性細胞内寄生体であるウイルスは、常に宿主の過酷な異物排除メカニズムに直面している上、世代時間も短いため、他の生物とは比較にならない程、適応進化を繰り返しており、ウイルスゲノムは、自然界が育んだ機能的な遺伝情報の結晶ともいうことができるのではないかと我々は考えております。本領域に参画することで、ウイルスの全く新しい側面を切り開くことができるのではないかと、大変期待しております。

 最後に余談ではありますが、私、新学術領域や学術変革領域といった領域研究に応募することが大好きです。これまでにも、宇宙の班や古代ゲノムの班といった一見すると、全くウイルス学とは関係のない班に押しかけて、勉強させて頂いて参りました。今回の申請内容に関しても、東工大・田口領域代表が展開された新生鎖の生物学に参画させて頂いたことがきっかけとなった研究成果を基盤としております。私のような若輩者に、日常の延長線上にはない研究のチャンスを与えれくださった全ての関係者の皆様に、この場を借りて感謝させて頂きたいと思います。

投稿者プロフィール

加藤哲久
加藤哲久東京大学医科学研究所 准教授
ウイルスゲノムに眠る孤児遺伝子の解読・機能解析から未解明の生命現象を紐解く