「一分子」の世界を覗いてみたら

 タンパク質、DNA、RNAなどの生体分子は、ただじっとしているのではなく、動き回り、結合したり、解離したり、形を変えながら、機能しています。私たちは、このダイナミックな現象を一分子レベルで直接見て理解したいと思っています。今回、単分子計測のノウハウの一旦を紹介できればと思います。

 単分子測定では、標的タンパク質に蛍光色素をつけ、蛍光顕微鏡でその動きなどを観察します。例えば、DNA上を滑るように動くDNA結合タンパク質がいる一方で、DNA上でぴくりとも動かないものもいます。DNA上で2つのタンパク質が出会うとき、タンパク質がすり抜けることもあります。相分離した液滴の中でタンパク質が動いていき、液滴の界面で跳ね返され、液滴の外になかなか出られない様子なども見えます。

 初めてのサンプルの観察は、特に楽しみです。一分子がまず見えるのか、一分子が見えたらどのように動いているのか、動きに何か特徴はあるのかという順で、進めていきます。まず、標的タンパク質の濃度が高いと分子が重なって見えてしまうので、蛍光修飾タンパク質を一分子として見える程度の濃度(~nM)に調整します。次に、一分子が輝点として見えるように、励起光強度、励起の方法、カメラの時間分解能やゲインなどを調節します。蛍光顕微鏡は、斜光照明や全反射照明ができる特殊なものを使う必要があります。標的タンパク質が素早く動く場合、カメラの時間分解能や励起光強度などを適切に調節するなど、経験が必要になります。

 単分子測定の良い点は、リアルタイムで結果が分かることです。世界で初めて、このタンパク質の動きを見ているという優越感に浸れます。タンパク質ごとに動き方が異なり、この機能を発揮するためにこの動き方をするのか、または、進化の過程でこの動き方になったのかを想像すると、わくわくしてきます。ノウハウというより、単分子計測の魅力の紹介になってしまったかもしれません。。。このブログで、「一分子」の世界に少しでも興味を持っていただけたらと思います。

投稿者プロフィール

鎌形清人
鎌形清人岐阜大学工学部 准教授
タンパク・DNA複合系の機能や液ー液相分離現象の分子文法を、オリジナルの計測、解析、設計を通して解き明かす。