非ドメインタンパク質のアッセンブリーと機能
皆さん、こんにちは。名古屋市立大学大学院薬学研究科/ 自然科学研究機構生命創成探究センターの矢木真穂と申します。この度は公募研究に採択いただき、ありがとうございます。皆さんのブログを読んで、どの研究も、もの凄く面白そう!とワクワクしました。皆さんと一緒に、色々な非ドメイン型バイオポリマーについて理解し、是非、共同研究など展開できればと考えております。
私の専門は、タンパク質科学および構造生物学です。これまで、「アミロイド形成の分子科学」として、アルツハイマー病の発症に関わるアミロイドβや、パーキンソン病の原因遺伝子産物であるαシヌクレインといった、天然変性タンパク質(アミロイド性タンパク質)をメインターゲットとして、主にNMR法を用いた構造研究を行ってきました。天然変性タンパク質は、溶液条件や膜組成といった様々な環境に応じて、かたちや集合様式をかえることができる変幻自在な点が面白いと思っています。環境因子と構造形成の関係がわかれば、かたちの情報から環境センシングも可能なのでは、と考えたりもしています。最近、こうしたアミロイド性タンパク質もLLPSを形成するという報告が相次いでいます。タンパク質の構造変化やアッセンブリー様式はさらに多様性を増しており、タンパク質科学的な興味は尽きません。
今回、本領域においては、「クマムシ由来の非ドメインタンパク質」に着目した研究を行います。私がクマムシのタンパク質に関わるようになったのは、当時、生命創成探究センターの一員として、「生きているとは何か?」という根源的な問いに挑む研究に参画することになったのがきっかけです。物質と生命の境界的存在であるクマムシに興味をもち、荒川和晴さんと共同研究をはじめました。
試みにクマムシに豊富に存在するタンパク質の一つであるCAHSタンパク質をNMR計測に供したところ、溶液中でモノマー状態のCAHSタンパク質は、N末端側は天然変性領域であるのに対して、C末端側の領域はαヘリックスに富むモルテングロビュール様構造をしていることが判りました。さらに興味深いことに、CAHSタンパク質は濃縮(乾燥)されるにつれて、C末端側のαヘリックス構造を介して自己集合し繊維構造を形成すること、高濃度条件下においてはハイドロゲルを形成すること、また、細胞に浸透圧をかけて擬脱水状態にすると細胞内でLLPSを形成することを見出しました。
CAHSタンパク質の繊維形成は、乾燥・給水といった環境に応じた可逆的なアッセンブリーである、という点が、上述のアミロイドβなどのアミロイド形成と最も異なる点であり、クマムシの乾眠機能に密接に関わっていると考えられます。また、CAHSタンパク質がゲル化した際にも、N末端側の天然変性領域はそのままフラフラと残っている可能性があり、その役割にも興味が持たれます。本研究では、構造・物性・環境因子との相互作用の特徴から、クマムシ由来非ドメインタンパク質を取り巻く分子ネットワークの実体解明に取り組んでいきたいと考えています。どうぞよろしくお願いします。
クマムシに豊富に存在するCAHSタンパク質のin vitroおよびin vivoにおける集合体形成
投稿者プロフィール
- クマムシ由来の非ドメインタンパク質に着目した構造研究を行います。
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