第二節 神経発生解明への夜明け―これからきっと面白くなる
慶應義塾大学医学部生理学教室・岡野研究室、岡野栄之教授についてより深く知って頂くために、彼のこれまでの研究人生(肖像)について、ドキュメンタリー形式のシリーズで綴らせて頂こうと思います。
第二節 神経発生解明への夜明け―これからきっと面白くなる
Montell氏の研究プロジェクトは、神経系に異常を示すショウジョウバエの原因遺伝子を同定•解析するものであった。1980年代から90年代にかけて、発生神経生物学の関心は、無脊椎動物から脊椎動物まで、「種を超えた普遍的な原理」の探索にあった。その原理とは、ある遺伝子が神経の発生を促進し、また制御を司(ル・つかさど)るというものだ。つまり“生命の根っこ”探しであった。
「ヒトヤマ当てたい!」
暮れも押し迫った12月28日、ついにそのヤマがやってきた。EGR測定で変異型の電位変化を複数見出すことができたのだ。そのうち3系統を「Spike」「Repo」「Argos」と名付けた。とりわけSpike(山脈の形)変異の脳波は、急上昇した後に急降下する、険しい山脈のパターンを示していた。岡野氏は大学の大型コンピュータを用いて、Spikeの遺伝子と既存の遺伝子との相同性解析を徹夜で行った。明け方、Spikeがタンパク質をコードする遺伝子だと判った時、静かで大きな感動を覚えた。それが後に神経発生の制御因子“Musashi”となる大発見であることはまだ把握できていなかった。
折しもその朝、ラジオから多国籍軍によるイラク空爆のニュースが流れた。1991年1月17日、湾岸戦争の勃発である。
「この研究はこれからきっと面白くなる、と感じたエキサイティングな朝でした」
岡野氏の生命科学への闘いはここから始まった。Musashiのメカニズムの解明によって「ヒトの脳を再生する」臨床研究まで一気につなげ、治療不能と言われた神経難病を治す道を開いていく。基礎研究の進化を進め、再生医療のワールドリーダーとなる“岡野氏の起源”を、その少年時代に遡ろう。
【ドクターズマガジン2021年8月号】より
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投稿者プロフィール
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Satoru Morimoto, M.D., Ph.D.
Keio Regenerative Medicine Research Center (KRM), Keio University
Project associate professorResearch Gate Building TONOMACHI 2, 4B, 3-25-10, Tonomachi, Kawasaki-ku, Kawasaki-shi, Kanagawa,
210-0821, Japan
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