細胞自動セグメンテーションAI
2022年は画像生成AIのMidjourneyや対話型AIのChatGPTなどの登場で、人工知能に明るくない私ですら、その急激な発展を目の当たりにした年でした。生物学の研究領域においても人工知能との融合が叫ばれている様相です。ただ、実験プラッテでピペットマンを握っているだけではなかなか融合できないようで、その恩恵にあずかることなく2023年を過ごしていました。そんな牧歌的研究者な私でしたが、細胞自動セグメンテーションAIのCellpose (Stringer et al., Nat. Methods, 2020) の力を最近まざまざと思い知りました(個人的にはMidjourney, ChatGPTを凌ぐ)ので、この機会に紹介させていただきます。
そもそも私たちはどのような研究をしているのかと申しますと、細胞内部におけるカスパーゼの活性化の時空間的な挙動を観察して、その意義を追求しようとしています。具体的には、例えばHeLa細胞にカスパーゼ活性検出FRETプローブを発現させて、アポトーシス誘導時にその活性が時間経過にしたがってどのように変化しているかということを解析しています。ここで、FRETのレシオ変化を各時間で評価するために、刻一刻と変化する細胞の形態をImageJでぽちぽちと地道に細胞を囲って頑張って定量していました。もちろん、ImageJを用いてなんとか自動でセグメンテーションをしようと、Gaussian Blurをかけて、Auto Thresholdで良いメソッドを選んで、Watershedで隣あった細胞を分離して、Analyze particlesで細胞を選択する、といったことは何度も試みてきましたが、実際には満足のいくセグメンテーションができたことは非常に稀です。
そんな中で出会った細胞自動セグメンテーションAIのCellposeは、簡単かつ(驚異的に)正確かつ(TrackMate-Cellposeの利用により)タイムラプスに対応可能かつ無料という、未来からきたとしか思えないほぼ魔法でした。解析方法も非常に簡単で、実際にFRETプローブを発現させたHeLa細胞の写真をドラッグ&ドロップで読み込み、A. 細胞のおおよその大きさを指定し、B. 適当な学習済みモデルを選択するだけで、ものの数秒で美しく細胞を囲ってくれます。
また、アポトーシス時には細胞の形態が大きく変化してしまうのですが、TrackMate-Cellposeを利用すればそんなことをものともせず細胞を追跡してくれます。
定量的なパラメータも勝手に計測してくれるため、余った時間でコーヒーを丁寧に淹れられます。これまでImageJでぽちぽち頑張って定量していた大学院生の話によると、体感100倍くらいの作業効率とのことです。私たちの研究室で、人工知能に仕事を奪われた初めての例になりました。また、人工知能といえば、まず大量の画像を準備して学習させる必要があると私は理解していましたが、そもそもそんなこともなく学習済みモデルを使うだけ(学習させることも可能)なので、これも驚きです。
実際の使用に際しては、Anaconda, Cellpose, Fiji (ImageJ), LabelsToROIS, TrackMate-Cellpose(タイムラプスの場合)をインストールするという、牧歌的研究者にやや難しい(本当は難しくない!)準備が必要です。つまづいた時はChatGPTに質問してみると、何か良い解決方法を教えてくれる場合があります。もちろん私にご連絡いただいても大丈夫です。
Cellposeは素晴らしく、10枚程度の画像を用いて再学習させることでさらに最適化させることもできるようです。この記事が、牧歌的研究者の方々の研究において自動セグメンテーションを始めるきっかけになりますと幸いです。