液滴撮影法2

国立遺伝学研究所の井手です。

 

今回は私の実験ハックということで、何を書こうか困っていたのですが、班員の野澤さんが液滴撮影法(https://nondomain.org/archives/1596)について書かれていたので、それに便乗して私たちが独自に行なっている液滴撮影法について書こうと思います。

野澤さんが書かれている通り、いろいろな条件で液滴形成を検討する際、貴重な精製タンパク質を節約するため、一度に用いるサンプル量を10µl程度に抑えたい。

① 液滴形成は湿箱内の8ウェルチャンバーカバー(松浪硝子#SCC-008 No.1S Non-Coat)で行います(写真左)。

懸案の水分の蒸発については、この湿箱に入れておけば、1週間以上室温に置いといてもしっかりとサンプルが残っていたので、1〜2時間ほどなら影響がないと思っています。撮影時は湿箱から出し、顕微鏡上の簡易な環境維持装置(特に湿度)にセットして、撮影時間は、30分以内、長くでも1時間で撮影を終わらせます。タンパク質によりますが、一度、サンプルの希釈を低吸着チューブを使用せずに行い、タンパク質がいなくなってしまった経験があります。

② サンプルを滴下後にすぐに浮遊している液滴を撮影するのではなく、あえて大部分の液滴がガラスの面に沈んでくるまで(付着するまで)、湿箱内で30分以上待ってから撮影します。遠心をして強制的に沈ませるプロトコルもあるようですが、試したことはありません。これにより、サンプルの厚みの問題を解消します。また、液滴がガラスに付着していると、FRAPや一分子イメージングなどで液滴内の分子の動態を観察しやすくなります(ただしガラスの表面から離れた箇所に焦点を当てます)。

その際、ガラスの表面の性質は液滴の形成に大きな影響を及ぼすので、目的に合わせて前もってコーティングすることを勧めます(何もしないとベトベトにガラスにくっつきます)。液滴が疎水性である場合、ガラス表面を親水性の試薬(Pluronic F-127)でコーティングすると、ガラスの表面に付着した際弾かれて、綺麗な丸い形になります(写真中央、Z軸を考慮すると正確には半球体の形)。

逆に疎水性の試薬(sigmacote)でコーティングすると、親和性があるためランダムに広がります(写真右)。これがいわゆる液滴の特徴の一つである“ぬれ性”です。逆に言うとガラス面上での液滴の形から、液滴が疎水性なのか、親水性なのかを推定できます。

ただしPluronic F-127は粉から溶かしてフレッシュなものを使用します。1% Pluronic F-127のストック溶液は1ヶ月ほどでコーティングの効果が下がります。ただ、この少し古くなった1% Pluronic F-127が役に立つ時があります。実験の過程で液滴が相転移を起こしゲル状になったりする場合、ガラスへの張り付きが悪くなります。その場合、液滴自身がガラス表面でコロコロと転がります。こんな時、少し古くなったPluronic F-127でコートすると、液滴が良い具合にガラス表面に付着し動かなくなります。

8ウェルチャンバーカバーの最大の利点として、サンプルを滴下し液滴を形成した後に、核酸や酵素等を加えて、簡易に液滴への影響を検討できることが挙げられます。また、順序立てて試薬を加えることで、液滴内で(液滴の外でなく)生化学反応を行うことが可能となります。

 

 

最後に8ウェルチャンバーカバーはロットによって、コーティングしても液滴の形にわずかな違い(綺麗な丸か少しいびつ)が出たことがあります。製造元に文句を言いたいのをぐっと堪えて、液滴はガラス表面の性質を見極めるより高感度なセンサーとして利用できるかもしれないと思ったりもしています。

 

 

投稿者プロフィール

井手聖
井手聖
核小体と相分離の研究を通して、生命と非生命の間にあるギャップを埋める法則を知りたい。