プロトコルの行間 〜SDS-PAGE〜
同じ実験手法やプロトコルを使っていても、人によって結果のクオリティが異なることがあります。綺麗な結果を出す人に尋ねてみると、スタッフ、大学院生に問わず、それぞれにこだわりや工夫があることに気付かされます。それらを見聞きしたり、時には実践してみて、「ほんとだ!知らなかった」「いやいや、それはおまじないでしょう」など、言葉を交わしていると、研究とはまた違った楽しみを感じることもしばしばです。今回はそんな、プロトコルに明文化されにくいプロトコルの行間について、SDS-PAGEを例に書いてみようと思います。
自分が所属している研究室では、おそらく一般的であろうワイドサイズのゲル板を使って、SDS-PAGEのゲルを作製しています。
ガラスのゲル板にシリコン精のパッキンを挟んで、クリップで止めて、ゲル溶液を流し込んで、固まるのを待つ。
さあ、SDS-PAGEしよう、とパッキンを外す。すると途端にゲルとゲル板との間に空気が入る。
この空気が鬱陶しい。この状態でSDS-PAGEからのウェスタンブロットをすると、バンドが歪むことがあります(経験的に高分子側が影響を受けやすいように思います)。手で空気を押し出すことも可能ですが、すべてを取り除くことはできません。
研究室を見渡すと、みなさんこの現象に対してそれぞれ対策を工夫していて、泳動層にゲル板をセットした状態でゲルを固めて最後にパッキンを引き抜く人や、紐上のシリコンパッキンである通称”はるさめ”を用いる人、などなど様々です。
泳動槽にゲル板セットした状態でゲルを作製
この現象は、クリップを外した時に、押し縮められていたシリコンパッキンが元に戻ろうとして、ゲルとゲル板の間を押し広げることで、起こると思われます。ですので、私は、パッキンが元に戻らないようクリップで挟んでいた場所を手で強く押さえながら、クリップを外して、それからパッキンを外します。
するとこの通り、空気が入りません。
しょうもない話だったかもしれませんが、油断すると結果に影響しかねない、ちょっとしたプロトコルの行間の所作。最近は、ChatGPTやAlphaFoldの登場で研究の進め方も徐々に変わってきていますが、職人気質な気持ちも忘れないでいたいです。
*今回の件、ちょうどいい力加減のクリップや、厚さがぴったり合っているパッキンを使っている方にとっては遭遇したことがない現象と思います。その場合は、何を訳のわからんことを長々と言っているんだと笑ってください。