論文をどこに投稿しますか。
ぐぁんばって研究して成果を出したら、さぁ論文を書く段階だ。
科学とは巨人の肩に少しずつ知見を積み上げる所業であり、先人の叡智のおかげで得られた結果は等しく人類に共有する責務がある。また、科学とは反証可能性に担保される人類がこの宇宙を理解するための方法であり、論文にすることでようやくその入り口に立つことができる。もちろん、税金によって資金が補助された研究の成果は、すべからく納税者に共有されなければならない。
では、どのジャーナルに投稿するか。
いい結果が出たからNatureか、次点でNature CommunicationかPNAS?そこまで大きな仕事ではないからScientific ReportsかPLOS ONEだろうか。
流石にこのご時世、オープンアクセスジャーナルに論文を発表すべきだ。そしてこのご時世、研究者が論文出版には"Article Processing Charges"を支払う。
さて、論文アクセプト!乾杯!酔いも覚めやらぬうち、APC請求書が届く。
- Nature: $12,290 = 192万円也
- Nature Communications: $6,790 = 106万円也
- PNAS: $5,300 = 83万円也
- Scientific Reports: $2590 = 40万円也
- PLOS One: $2,290 = 36万円也 (注:執筆時 $1=¥156.2)
科研費基盤Cをとっているとしよう。3~5年間で500万円。充足率7割程度なので、おそらく支給額は3年で350万円程度。期間内に論文1本は少なくともまとめるだろうので、PLOS Oneに投稿したとする。すると、全予算の10%以上をAPCに支出することになる。
だが、問題の根はもっと深い。科研費の原資は税金である。これを使って、僕らは、多くの場合、海外の試薬を買い、海外のジャーナルに論文を投稿する。税金が海外に流れ、海外の試薬メーカーやジャーナルが潤い、より力を持つ。Rich get richer.
みんないつまでこのゲームを続けるつもりだい?
負の連鎖を、断ち切らなければならない。オープンアクセスジャーナルであればどこに投稿しようが関係なく、人類の誰もが読める。ジャーナルの威を借らねば論文を読んでもらえないなんていうことはソーシャルメディア全盛期の現代には全くないし、海外のジャーナルである必然性はない。日本のジャーナルに投稿すれば、そのジャーナルが潤い、良い論文が集まることで評価も上がる。税金が国内に還元される。最初はどこぞの企業が集計するImpact Factorとやらも高くないかもしれないが、育てなければそれは永遠に上がらない。しっかり育ってジャーナルの評価が上がれば、海外からお金が日本に集まる。論文の評価や判断をするのも、Nature Editorの顔色を伺うのではなく、本邦の同僚たちになる。
日本のジャーナルにはAPCが無料のものも少なくない。たとえばこの学術変革領域に近いところだと、日本分子生物学会が運営するジャーナルGenes to CellsはAPC無料(オープンアクセスにならないが、preprintをbioRxivに投稿しておけば良い)で、当然PubMedにIndexされる。しっかりとした査読がなされ、Editorとの連絡は日本語でできる。APCがかからなければ、その分を研究に費やすことができる。みんな研究をしたいはずでしょ?
私は数年前から、自分が筆頭・責任著者になる論文でNature Publishing Groupのジャーナルに投稿するのをやめ、なるべく日本のジャーナルに投稿するようにしている。そんな中、是非ともみんなで育て上げたいジャーナルにこの度論文を発表させていただいた。
その名も、Proceedings of the Japan Academy, Series B (PJA-B). 今年で第100巻、つまり100年の歴史を持つ、日本学士院紀要である。PJA-Bはオープンアクセスで、にも関わらずAPCは無料で、PubMedにIndexされ、Editorとは日本語でコミュニケーション可能で、日本学士院(初代会長は我らが福澤諭吉である!)が運営する権威あるジャーナルである。Advanced Online Publicationに対応していて、アクセプトされてから速やかにオンライン出版もしていただけた。もちろんpreprintの投稿も歓迎していただけて、もはや文句のつけどころがない。Impact Factorは3.1らしいが、PLOS Oneの3.7と比較して特別低いとは思わないし、(圧倒的な先輩を前におこがましいことは承知の上で)何より育てがいがあるではないか!
こういった議論はたまに耳にしないでもないけれど、実際に実行している人はあまり見かけない。私は『隗より始めよ』の精神ですでに実践を始めた。みなさんもどうだろうか。我が国の次の世代の研究者のために、一緒により良い環境を作っていきませんか。
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