顕微鏡観察のオカルト化は楽しいですが、、、
Seeing is believingと題した学会があるように、細胞生物学の分野では「見る」ことというのがとても重要なように思います。我々の研究室では最近、いろいろな観察法がある中でも、細胞内の電子顕微鏡観察に力を入れていまして、あれやこれやと条件を変えて、私には見える、いや気のせい?と、外から聞くと、オカルトかよ、、、という会話を日々、繰り返しています。
自分も電子顕微鏡画像を見始めた頃は、画像の良し悪しを語る電子顕微鏡のプロの会話を聞いて同じことを思っていたので、なかなか電子顕微鏡観察をしたことがない方には伝わらないかと思います。日常生活では、オーディオマニアの人たちが、配線を変えたり、電流値のブレを気にしたりしながら、聞こえる、聞こえないとオカルト会話をしているのと似ているかもしれません。そこまで、マニアではなくても、昔はなんとも思わなかったMP3の音質も、ハイレゾ配信のある今聞いてみるとすごく平坦な音に聞こえるという経験をした方もいらっしゃるかもしれません。
見えた、見えない、の観点では、一旦解像度の高いディスプレイを使い始めるとつい数日前まで使っていた解像度の低いディスプレイでの表示がザラザラに見えるというような例の方が似ているかもしれません。実際、一旦きれいな電子顕微鏡画像を見てしまうと、なかなか元には戻れなくなってしまいます。これは蛍光顕微鏡画像でも同じかと思います。
ただ、サイエンスの世界ですので、自分には見えます、ではなく、「ここにありますよ」、と皆さんと結果や知識を共有しなくてはなりません。電子顕微鏡画像解析の世界では画像の中の目的構造をなぞって、しっかり表記していく作業、セグメンテーションと呼ばれる作業、がこれにあたります。最近は電子顕微鏡画像の取得効率が爆発的改善しまして、このセグメンテーションを人間の手でやっていては到底追いつかない、、、となっていたのですが、そこで現れたのが深層学習 - Deep Learning - です。
我々は生物学者でも使いやすいDeep Learningのプラットフォームの作成を行うことで、今まで専門家が目を凝らして頭の中で組み立てていた、ミトコンドリアと内部のクリステ構造を3次元再構築し、そして定量解析も行いました (Suga, Nakamura, et al., PLOS Biology, 2023)。
アナログからデジタルになるような味気なさも伴うかもしれませんが、やはりこうやって知識が共有されていくのは素晴らしいことのように思います。