液滴に集まった研究者たち〜第4回領域総括班会議〜
横浜市立大学 髙橋秀尚研究室 (大学院医学研究科分子生物学) に所属する博士課程1年の古郡華月と申します。公募班の鈴木秀文先生の同伴者として、第4回領域総括班会議に参加させていただきました。
2024年9月17日〜19日、滋賀県長浜市の北ビワコホテルグラツィエにて第4回領域総括班会議が開催されました。9月も半ばを過ぎているにも関わらずしぶとく残る暑さに負けず、60人を超える非ドメイン生物学の研究者が集まり、口頭発表やワールドポスターセッションなどで熱い議論が繰り広げられていました。質疑応答も活発で、コーヒーブレイクの時間も活用して議論されている方などもおり、研究の熱気を間近で感じました。口頭発表では、ヒト、マウスをはじめ、大腸菌、ショウジョウバエ、線虫、ミジンコ、クマムシ、テトラヒメナなど多種多様な生物や、イネなどの植物の非ドメイン型バイオポリマーに関する研究について聞くことができました。研究内容については、非膜オルガネラの機能や構造、液滴形成のメカニズム、ノンコーディングRNAの機能、分子動力学シミュレーションやタンパク質の構造に至るまでさまざまで、国内でこんなにも多角的に非ドメイン型分子の研究がなされているのかと驚きました。私は普段、転写の制御メカニズムを研究していますが、普段あまり触れることがない分野の話が多く、とても勉強になりました。
数々の刺激的な研究のお話に驚かされたのは言うまでもありませんが、私が一番印象に残ったのは、アドバイザーでいらっしゃる阿形清和先生からのご講評でのお話でした。全ての発表が終わり、残すところは意見交換会のみ。「班会議はここからが本番である。普段は全国に散らばっている研究者が、今このホテルという小さな空間、例えるのであれば液滴に一堂に集まっている。この機を逃すことなく、思う存分相互作用してほしい。」というお話でした。全ての発表を聴き終わり、やりきった感を感じていた私にとって、このお言葉はとても意外で衝撃的でした。実際に意見交換会が始まってみると、始まるや否や、会場のあちこちで非常に活発な議論がはじまり、その熱量は印象的でした。その様子は、さながら、無数の分子が構造を取らない自由な天然変性領域を介して集まりながら反応を起こしている“細胞内液滴”のようで、新たなネットワークが生まれながら研究の可能性が広がっていく、そんな様子を目の当たりにしているような気がしました。私自身も意見交換会という液滴の中で、少しだけ、新たなネットワークを構築することができたように感じています。学生であれば、知り合いになること、こんな研究をしている人がいるということをお互いに認識するだけでも大いに意味があることなのかもしれません。毎日研究室に籠って実験をしていると、なかなか知り合いが増える機会はありません。初めてお話しする先生方や、志を同じくする同世代の学生と相互作用できたことは、私にとって貴重な経験でしたし、私のような学生が将来へのモチベーションを高めるための大切な機会であるように感じました。阿形先生がおっしゃられた通り、会場では全国の研究者が密に相互作用し、非ドメイン生物学研究の可能性が大きく広がった瞬間だったのではないかと思います。
今回の班会議に参加させていただいたことで、今の日本の基礎研究を引っ張ってくださっている多くの先生方と相互作用することができ、多くの刺激を受けることができました。天然変性領域の翻訳後修飾は、分子機能の制御に重要であるそうです。たった2日間という短い時間でしたが、私の天然変性領域にも何かポジティブな翻訳後修飾が加わった気がしています。皆様と、またどこかの“液滴”でお会いできるのを楽しみにしています。
最後になりますが、このような素敵な班会議を企画・運営してくださった皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。