MBSJ2024のシンポジウムのすごいゲスト

 いよいよやってきました冬の風物詩、分子生物学会。分生の準備をしていると、ああもうすぐ年の瀬かと一年振り返りモードになり、一年の総括という意味でも、特に気合の入る学会ではあります。今年もRNA関連のセッションがいっぱい。特にイチオシは、本領域の廣瀬さんと北大の栗原さん企画の最終日の最後の大トリ枠、[3PS-01]非コードRNA発現によるジャンクDNA機能の顕在化とその阻止機構、です!ここでは海外の新進気鋭のゲストの紹介をしたいと思います。

まず一人目はTugce Aktasさん。ラボホームページはこちら

2011年にハイデルベルグ大学で内在性レトロウイルスがエンハンサーの機能をブロックするという仕事で学位を取られたあと(学位論文はこちら)、Max Planck Institute of Immunology and GeneticsのAsifa Akhtarさんのところでポスドク。ヒトゲノムに刺さりまくってるAluはいろいろなRNA転写産物にややこしい二次構造を導入してしまいますが、それをDhx9がほどいてやって環状化を防いでいたり異常スプライシングを抑えているという2017年のこちらのお仕事はなかなかインパクトがありました。このお仕事の原動力となっていたのが手掛けておられたのがFLASH。週刊誌?ではなくて、RNA結合タンパク質のRNA結合サイトを調べる超速プロトコールらしく、恐ろしく手間と時間がかかるCLIPがたった1.5日で終わる手法らしいです。その後ベルリンのMax Planck Institute of Molecular Geneticsで独立。2022年に発表された、「あのSC35ってSC35じゃなくてSRRM2みたいよ」論文は、長年この抗体を核スペックルマーカーとして使ってきた人間にとっては本当に衝撃の論文で、そうかそうだったのかと、いろいろな疑問がすとんと腑に落ちたのが強烈な印象に残っています。SC35抗体がSRRM2を認識していることを示し、さらに巨大天然変性タンパク質でもあるRNA結合タンパク質SONとSRRM2が核スペックルの骨格となっていることを明確に示したAktasさんのお仕事は、核スペックル業界のまさに一大マイルストーンとも言えるかと思います。さらにAktasさんの快進撃はつづいて、つい最近発表されたこちらの論文、SAFBがレトロトランスポゾンL1のエクソン化を抑えているという論文もとてもエレガントで、こんなクラシカルなタンパク質がそんな仕事をしていたなんてまさに目からウロコの報告です。お前だったのか、L1のエクソン化を抑えていたのは、みたいな、ごんぎつねクリアーなFLASH/RNAseqの結果は圧巻でした。ホームページによればレトロトランスポゾンとゲノムの共進化というテーマが最近のメインの研究テーマらしく、まさに僕のツボ中のツボ。今後の研究の展開が益々楽しみです。

続きましてはAnkur Jainさん。ラボホームページはこちら

2014にUniversitu of Illinois Urbana-Champainで学位を取られた仕事(学位論文はこちら)がのっけからすごくて、免疫沈降産物はウエスタンしたり質量分析にかけたりシークエンスしたり、というのが普通だと思うのですが、それって一分子観察できるでしょ、ということで顕微鏡で覗いたら複合体の多様性やダイナミクスが分かっちゃいました、というこの論文がデビュー作。その後、細胞骨格輸送のイメージング研究で有名なiBiology創立者でもあるUCSFのRon Valeさんのところでポスドク。つい最近のリピート病関連のRNAが細胞内でgranuleを形成するという2017年の論文は、相分離研究に関心のある方はよく覚えておられるのではないでしょうか。そしてMITのWhitehead Instituteでラボを立ち上げられ、早速CAGリピートがスプライシングの異常アクセプターとなって開始メチオニンをキャッチして異常翻訳の原因となるなんていう、おもしろ論文を出されています。目の付け所がシャープだね、というか、超絶技術をガシガシ振り回すというよりは、ちょっとしたアイデアで本質をつくスタイルが痛快です。

しかしそれにしても、と思うのは、お二方の最強publication listというか、息をするようにnatureなうというのがすごいというかなんというか。いわゆるああいう雑誌は妖しげな御伽話が多くてうんざりするところもあるのですが、良い仕事を良いと言われている雑誌にきちんと出すというのも大事で、こういう方たちの清々しい仕事ぶりを見ていると、つまらんことを考えずに実験しよう、という気になってきます。このお二方とも分生前日のFukuoka RNA Clubにも来られますのでぜひ皆さん交流を!!