膜と非膜
公募研究に採択していただきました理化学研究所脳神経科学研究センターの持田啓佑と申します。
私の専門をキーワードとして挙げると、「小胞体」や「タンパク質分解」になるかと思います。特に、オートファジーが小胞体を分解する仕組みを研究してきました。ScienceというよりはArtの話になりますが、蛍光顕微鏡で覗くと、小胞体というオルガネラは非常に美しい形をしています。この美しい網目状構造の上には、実はいくつかの種類の、膜の無い小さなコンパートメントが存在します。例えばオートファジーで小胞体を分解する際には、分解に関わるタンパク質が液滴のような小さなドメインに濃縮され、その小胞体領域が分解されていきます。また、小胞輸送やタンパク質合成に関わるドメインなど、小胞体上の一部で局所的に高次集合し、特定の機能に特化した小さなコンパートメントを形成するタンパク質の例が近年複数報告されてきました。
何か新しい研究を始めたいと考えていた時に、小胞体膜の上に作られる非膜コンパートメントがもっといろいろあるのではないか?それらをバイアスなく広範に調べることは出来ないか?と考えたのが本研究のスタートポイントでした。特定の構造体にフォーカスするのではなく、液滴やゲルのような性質を持った構造体(の構成タンパク質)を網羅的に探索するというのは、無謀なアイデアに思われましたが、なんとか目的のものに近いタンパク質群を単離・プロテオーム解析できるようになってきました。実際にプロテオーム解析を行うと天然変性領域を多く含むようなタンパク質が多数同定されました。もちろん機能が分かっているタンパク質の方が多いのですが、何をしているのか分からないタンパク質もありました。本領域研究では、同定された非ドメイン型タンパク質を高次集合という観点で解析し、その生理機能を明らかにすることで、非ドメイン型タンパク質の世界の理解に少しでも貢献できればと考えています。このようなグループに参加させていただくのは初めてですが、専門家の皆様との交流・議論を通じて、研究を発展させることが出来ればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。