次世代シーケンス はじめました

タイトルが紛らわしいが、私がシーケンス受注をはじめたわけではなく、次世代シーケンスの外注に出し始めました、という話である。

ちょうど昨年のはじめ頃から、うちのラボでは次世代シーケンスの外注、いわゆるレーン買取でのシーケンス外注 (シーケンスのみ) を頻繁に出すようになった。「次世代シーケンサーでゲノムワイドに見る」ことが当たり前のようになって久しいが、当ラボでもとうとうゲノムワイド解析が主流になったのである。それまでももちろん、RNA-seqやらChIP-seqやら、ちょっとマニアックな〇〇-seqやらを武器に仕事を進めていたのだが、ほとんどが共同研究か、いわゆるゲノム支援頼りだった。ライブラリも作ってもらっていたし、他力本願で心許ない感じであった。この状況を打破すべく、とうとう昨年あたりから、自前でライブラリを作って外注しようということになった。転写の研究をバリバリ(?) やっているのに今さらな感じがするが、やっと時代のスタンダードに追いついた気がした。これがここ数年での大きな変化の1つなので、当ラボの次世代シーケンサーとの付き合い方について紹介したいと思う。

よく代理店さんから、「RNA-seq・ChIP-seq外注どうですか?キャンペーン始まります!」と紹介されるが、キャンペーンと謳っていてもやはりライブラリ調製込みだと3万円くらいする印象。データ解析込みだとさらに倍近くかかる。いざ論文用にデータをとるとなると、10~20サンプルくらい出す必要があるので、それで数十万の出費はコスパ的にだいぶ厳しい。みんなどうしているのだろうか。知り合いの研究者に聞いてみると、ライブラリは自前で作ってシーケンスだけ外注に出していると聞く。レーン買取プランでシーケンスだけしてもらうなら、だいぶコスパ良くできるよ、と。当時、ちょうどラボの予算に少しだけ余裕があったので、それならうちでもやってみようということで、いろいろと試薬やらTapeStationやらを揃えて、ライブラリ作製のための環境を整えた。外注するのはNovaSeq X Plus 10Bフローセル レーン占有プランで、25億リード程度を読んでくれる。つまり、60サンプルをプールして送れば、サンプルあたり4000万リードくらい読んでもらえる。ペアエンドリードとしても、それなりのデータ量が見込まれる。1シーケンスで30万円ちょっと、あとはライブラリ調製にかかるコストがサンプル数分だけという感じ。ライブラリ調製コストは、大雑把に計算すると、ChIPサンプルで~6,000円/サンプルくらい、RNAサンプルでは、polyAセレクションならやはり6,000~7,000円/サンプルだが、リボソームRNA除去は少しお高く、~15,000円/サンプルくらいか。つまり、ChIPサンプルであれば、60サンプルくらいのプールでレーン買取プランを申し込めば、1サンプルあたり1万円ちょっとでデータが得られる計算だ。もしライブラリ調製込みで外注したら、少なくとも2〜3倍はコストがかかるだろう。私たちはN社のライブラリ調製キットを使用しているが、T社などから日本製のもっと安いキットも販売されているので、さらなるコストカットも可能である。いざやってみると、なるほど、やはりqPCRで1遺伝子ずつ見るのと違って、ゲノム全体での変化が見えてくる、当たり前なのだが。言いたいことは、一定のコストはかかっても、次世代シーケンスによる網羅的な解析にはqPCRでは得られない確かな価値があるということだ。仮説通りの動きが見えてくる場合もあれば、思ってもいなかったような新しい現象と出逢えることもある。直近の論文化には役に立たない失敗実験のように思えても、後々見返してみたら意味のあるものが浮かび上がってくるかもしれない。何より、ゲノム全体の反応を見てみることで、与えた処理に対して細胞がどのようにレスポンスしているのかを理解することができる。それは生命現象を理解するプロセスとして、期待通りか期待外れだったかは別として、確かに意味のあるものだと思っている。期待したデータが得られなかったからお金をかけた意味がなかったとか、qPCRで大事な遺伝子だけカバーすればいいとか、そんな短絡的なものではないのだろう。

話が逸れてしまったが、つまり、意外と安価に次世代シーケンス解析に出せるんだということと、ガンガン次世代解析を回すことで、新しい気づきが得られた、という話である。自前でのライブラリ作製&レーン買取シーケンスの外注によって、かなりのサンプル数の次世代シーケンス解析が可能になる。実際われわれは今、ラボ全体で年間数百サンプルは解析している。網羅的に見てみることで格段に理解が深まるので、もしお財布事情が許せば、ぜひシーケンスに出してみるのがオススメである。驚きなのは、大学内の近所のラボに話を聞いてみると、「え、そんなことできるの!?」というリアクションが多いことである。みんな、〇〇-seqをもっとやりたくても、どこか敷居の高さを感じていて、なかなか気軽には手が出せないというところが多いようである。われわれも少し前まではそうだったので、本当はガンガン次世代シーケンスやりたいのだけど・・・という方々を何かしらの形でお手伝いできたらなと最近は常々思っている。もちろんある程度コストはかかるが、学内の有志ラボや、それこそ、研究領域内などでサンプルを集約して次世代シーケンスにどんどん出せば、気軽にお得に次世代シーケンスできるかもしれない。実際に今、学内外のいくつかのラボと連携してうちでライブラリを作ったり、一緒にレーンシーケンスに出したりする動きをはじめている。こんなちょっとしたことだけで、格段に組織の研究力が向上するのではないだろうか。次世代シーケンスに関してわれわれよりも遥かにプロフェッショナルなラボが多いとは思うので恐縮ではあるが、ご相談いただければ何かしらお手伝いさせていただきたいと思う。ちなみに、誰がそんなにライブラリ作ってくれるのかとか、データ解析はどうしているのかについては、試行錯誤の現状をまたの機会にご紹介できたらと思う。