ものが集まる仕組み
がん研究所の野澤竜介と申します。このたびは公募研究に採択いただき、班員の方々と独自の視点や技術などを持ち寄って議論できますことを大変嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします。
私はこれまでに、公募班の小布施先生の元でヘテロクロマチンについて学んだのちに、留学先ではユークロマチンについて研究する機会を得ました。転写活性やクロマチンの構造など正反対の性質を示す両者ですが、“ものが集まる”ことで、その場の特徴的な環境が作り出される、という点においてはどちらのクロマチンにも共通して観察される現象であり、私の興味もそこに集まっています。
ものが集まるには、きっかけが必要です。私は、そのきっかけとしての役割を持つのではないかと、セントロメアの繰り返し配列に着目しています。ヒトでは、アルファサテライトと呼ばれる約171bpのDNA配列が数Mbpにわたって高度に繰り返し、セントロメアを形成しています。進化の過程をみてみると、出芽酵母では125bpの単体のDNA配列がセントロメアとして機能していますが、分裂酵母から高度に繰り返すDNA配列がセントロメアに出現し、進化に伴うゲノムサイズの増大とともにその繰返し構造は拡張しています。面白いのは、DNA配列そのものは進化的に保存されておらず、DNA配列の繰り返し構造だけが進化の過程で採用されてきたことです。つまり、セントロメアのDNA配列が繰り返し構造を形成することが、ゲノム情報の均等な分配や維持に重要であると考えられます。
このように一見して絶対重要!と思われるセントロメア配列ですが、セントロメアが欠失してしまうような緊急事態には、本来セントロメアではない領域がセントロメアとして機能したり(ネオセントロメア)、ある生物種のある染色体ではセントロメアに繰り返し構造を持っていなかったりと、その役割や必要性については疑問が残されています。そんなミステリアスなセントロメアの繰り返し配列の意義について、その局所にものが集まるという現象を観察しながら明らかにしたいと考えています。
写真ではDNA-FISHをベースとしたChromosome Orientation FISH (CO-FISH)という手法で姉妹染色分体のセントロメアDNAを染め分けています。