無線で温湿度情報を飛ばしてクラウドへ

東京大の國枝です。
今年の夏はまた一段と暑いですね。大体どこもかしこも連日気温が35度を超え猛暑日が続きました。
こうなると室温でインキュベートと37度でインキュベートの違いがよくわからなくなってきます。
さすがにエアコンをつけてますので部屋の温度が37度になることはありませんが、冬の室温と大分違うのは明らかです。
温度はいろんな化学反応(や生物現象)に影響を与えますので、これは実験の再現性という意味では由々しき事態です。と、そんな大げさな理由でも無いのですが、何年か前からいくつかの実験室の温湿度はクラウドにログを取るようにしています。もともとは、何年か前にIoT (Internet of things)や電子工作が流行った時に興味本位で作ったシステムがまだ動き続けているだけなのですが、ちょっと変わっているかもしれないのは温湿度センサーの情報を無線で飛ばして、近場のPC(うちの場合はラズベリーパイ)で受信してクラウドに上げるという運用になっているところです。

無線で飛ぶので置く場所を選ばず、インキュベータの中とかもセンサー(+無線)をぽんと置けばokで有線の取り回しとか気にする必要がありません。また、消費電力が超少ないので単3電池で年単位でもちます(使用している無線モジュール TweLite のおかげ)。ボタン電池だと数ヶ月しかもちませんが全体のサイズはぐっと小さくなって35mm dish に毛が生えた程度になります。ちゃんとした温湿度ロガーは表示部だったり記録装置がついていることもあってサイズが大きくお値段もうん万円しますが、今回の系だとセンサーと無線モジュールだけなので一個あたり数千円で済み、ちゃんとした温湿度ロガー1個の費用があれば5-10個くらい作れます。また、データも自動でクラウドにたまるので、複数センサーの情報を一気にしかもリアルタイムに取得するのも簡単です。複数箇所の温湿度を管理したい用途にはおすすめです。

うちの研究室は実験材料としてクマムシという動物を使っており、その飼育に使っている部屋は温湿度を常にモニターしています。最強の生物などの二つ名で名高いクマムシですが、水に浸かった通常の飼育環境では30度超えが続くだけで調子が悪くなってしまう軟弱者なので、温度管理は重要なのです。(多分クマムシの種類にも依存しますが、夏休みの自由研究でクマムシの飼育に手を出すのはあまり良い策では無いと思っています)。

もう一つ、クマムシの実験で欠かせないのは湿度の制御です。クマムシはうまく乾燥させると乾眠という無敵状態に移行できるのですが、クマムシの種類によっては乾燥時の湿度を高くコントロールしてゆっくり乾燥させる必要があります。湿度の制御は飽和塩溶液を使うのが安くて簡単です。塩の種類によって蒸気圧が変わるので、適当な塩の飽和溶液をタッパーなどの密閉容器に入れて放置すると一定の湿度に落ち着きます。ここに水に濡れたクマムシを入れると、最初はクマムシの周りから水が蒸発するので一過的に湿度が上がりますが、蒸発した水は飽和塩溶液に吸収されることで最終的に元の湿度に戻ります。この過程でクマムシがゆっくり脱水するという寸法です。クマムシと一緒に持ち込んだ水の量によって高湿度状況の持続時間が変わるので、実験としてはその湿度変化を記録しておきたいわけです。ここで上記で紹介した自作無線センサーを利用しています。市販の無線モジュール(TweLite)と温湿度センサー(Sensirion SHT25)をワイヤー4本でつないだもので、センサー部分をクマムシのそばに設置してそのまま乾燥容器の蓋を閉めれば温湿度情報は無線で飛んでクラウドでリアルタイムに観測することができます。コスト的に何個もセンサーを使えるので同時に複数の湿度条件を検討するのも容易です。作った当時は、自分でハンダ付けする必要があったのですが、今は最初から無線モジュールに温湿度センサーが組み込まれたものが販売されているようです。センサーの精度にこだわらなければ、組み込み済みのもので十分だと思います。ハンダ付けしなくて済むのは魅力的です。

■無線モジュール
TweLite (MONO-WIRELESS)
https://mono-wireless.com/jp/products/TWE-LITE/index.html

■ IoT クラウド
ThingSpeak
https://thingspeak.com/

■ 温湿度センサー
Sensirion SHT-25
https://strawberry-linux.com/catalog/items?code=80025
※1 今は TweLite に温湿度センサー組み込み済みのものがあるので、そちらがお手軽だと思います。
※2 精度を求めるなら自分で外付けするのが良いですが、その場合のセンサーは Sensirion から後継品が出てますので、そちらが良いでしょう。

※ 受信用PC(安いラズパイで十分)とそれに接続する無線USBモジュールが別に必要です