ジャムセッション
私が20代の数年間、大学院生としての研究もそこそこに(?)、かなりの魂を注いで活動していたバンドが、先日、久々にライブをするというので、見に行って来ました。当時よりもはるかにパワーアップした、でも当時と同じ熱いサウンド、そして当時と同じメンバーの表情や仕草も懐かしく、何よりみんな本当に楽しそうでキラキラと輝いていて、私自身とても幸せな時間を過ごしました。当時の私の演奏の様子や衣装の特徴まで覚えてくれている昔からのファンの方もいらっしゃっていて、感激しました。進む道は異なりましたが、好きなことを追求して生きてゆける幸せは、研究者もミュージシャンも同じだと、改めて実感しました。
音楽のライブで感じるのと同じ様なキラキラとした輝きを、研究者の方々から感じることもよくあります。ああ、この人は本当に自分の研究が好きなんだな、本当に楽しんで研究しているんだな、という人のプレゼンテーションは面白く説得力があり、また、その人ならではのこだわりや工夫、苦労の跡などが垣間見えたりして、大きな物語を聞いているような気持ちにさせてくれます。同じ様に、一見淡々と書かれた論文の中にも、思わずうなってしまうような驚きや輝き、そして物語が存在していることがあります。
私の中で今でも印象に残っているのは、学生時代に読んだZamore labのこの論文です。まだArgonauteタンパク質の存在すら分かっていなかったこの時代に、古典的で正攻法の生化学を駆使することによって、長い二本鎖RNAがDicerによってsiRNAに切断されRISCを形成し標的を切断するまでの各素過程を、この精度の高さで解析できていたという事実、そして、この時提唱されたモデルの正確性の高さには、今読んでも驚かされます。この論文を読んで感激した私は、その後、あまり後先を考えないままPhil Zamoreにメールを送り、ポスドクとして雇われることになりました。
音楽も科学も人間の営みであり、もちろん苦労も多いものですが、最終的には「楽しい」「知りたい」「好き」という純粋な気持ちがその中心に存在します。そして、これらの人間の根源的な営みは、他人との共同作業を通じて爆発的に増幅するものです。バンドとしての活動や研究室間の共同研究、というような正式なものではなくても、音楽仲間と気軽に音を重ねてみたり、研究仲間と何気なく話したりする中で、一人では決して思いつかないような新たな発想や発見が生まれます。この学術変革領域は、そのような気軽で何気ない「ジャムセッション」の場としても、大きな価値があるものだと思います。領域もあと2年、どのようなアンサンブルが生まれるか、とても楽しみにしています。
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