出会い

私が勤務している大学の所在地である長浜は、出会いの地です。北国街道の宿場町であり町人の街であり、城下町でもあります。秀吉が初めて城持ちの大名となったのが長浜であり、このことから長浜城は秀吉の出世城と呼ばれます。復元された天守の内部は現在、歴史博物館となっていて、近隣の歴史や秀吉に関連する展示を見ることができます。

「出逢い」という像が長浜駅東口にあります(写真)。三献茶の逸話で知られる秀吉と石田三成の出会いをモチーフにしています(長浜の東方に石田という地名があり、そこが三成の出生地とされています)。後世の創作との説もあるそうですが、三献茶の逸話には人の運命を変える出会いのロマンがあります。

言うまでもなく、蛋白質などの生体分子も相互作用する相手との出会いは重要です。細胞は膜構造や相分離によって生じる小空間に区画化されていますが、そうすることで生体分子の濃度が局所的に高くなれば、出会いの確率が上がります。

分子シミュレーションでも生体高分子間相互作用を探索することは可能です。粗視化モデルなどを用いると高分子が混み合っている環境をシミュレートすることができます。相互作用する相手の分子が決まっている場合は、全原子モデルを使い、二分子だけを取り出してシミュレーションすることもあります。天然変性蛋白質の場合、蛋白質分子の相対配置だけでなく個々の分子の多様な立体構造も探索します。相互作用の自由エネルギーを知るには、シミュレーション中に分子達が別れと出会いを繰り返すと好都合です。しかし、実際にやってみると、会合するはずの分子がずっと離ればなれになってしまったり、出会った2分子がくっつきっぱなしになったりもします。会合と解離が自然に繰り返されるほどの長いシミュレーション時間を確保できないときにおこります。そこで、分子達を無理やり別れさせたり出会わせたりする手法を用いたりします。

学会や領域の存在意義の一つは、局所的に(研究者の)存在密度が上がり出会いが起こりやすくなることだと思います。会合では人だけでなく興味深い現象や知見との出会いがいつもあります。鶴岡では息を飲むオーシャンビューにも出会えました。長浜には海の代わりに淡海があります。お越しの際には地元の名物・銘酒・名所にも出逢っていただければ幸いです。安心してください。無理やり別れさせたりはしませんから。

投稿者プロフィール

依田 隆夫長浜バイオ大学 准教授