テトラヒメナをみつけてみませんか?

私が研究する繊毛虫のテトラヒメナは、50ミクロン程度の単細胞生物で、世界中の池や湖に生息していると言われているのですが、実は、日本にどんな種類がいるのかはあまり調べられていません。

今回は、最近動き出した日本のテトラヒメナをみんなで調査する「テトラハント」というプロジェクトを紹介しようと思います。「やってみたい!」という方は、お声がけください。

このプロジェクトは、ラボで一緒に働いている基礎生物学研究所・技術職員の西本裕希さんが中心となって進めていて、一般の方や小中高生の手を借りて、テトラヒメナを集めてもらおうという市民参加型のプロジェクトです。各地から集まったテトラヒメナは、ゲノムDNA やミトコンドリアゲノムの配列解析で種を絞り込みます(全ゲノムレベルでの配列解析は今後の課題)。また、集まったテトラヒメナは液体窒素の中で凍結保存します。系統的に重要な新種が見つかる可能性も十分にありますし、系統間配列比較解析はもちろんのこと、夢は大きく、GWAS解析もできるようになるかもしれません。

野外でテトラヒメナをみつけるには、1)池の泥水を持ち帰って、実体顕微鏡をのぞいてそれっぽいのを探す方法と、2)トラップ(罠)を仕掛けて集める方法があります。1)は、前回の投稿でも紹介しましたが、今までみたことのないヘンテコな繊毛虫が次々と現れて、ついついテトラヒメナを忘れてヘンテコの方を追いかけてしまうというマニアならではの問題があります。

そもそも一般家庭に顕微鏡なんてないので、今回は、2)の「テトラヒメナしかとれない専用のトラップ」を使った方法で集めます。トラップのしくみは、超シンプルで、テトラヒメナ用の培養液を入れたクライオチューブ(哺乳類などの培養細胞を凍結保存するときに使うプラスチック製の容器)にコーヒーフィルターで蓋をして、池の浅瀬に沈めるだけです。

    

培養液におびき寄せられたテトラヒメナは、コーヒーフィルターの小さな隙間を通ってトラップの中に入ります。培養液には抗生物質が入っているので、バクテリアの増殖を防ぐことができて、結果的にトラップの中ではテトラヒメナだけが増殖します。トラップは数時間〜1日後に回収します(数日おいた方がたくさん入るかもしれません)。回収したトラップは、コーヒーフィルターを外して、クライオチューブのキャップを閉めて送るだけ。簡単ですよね。

ここまで計画してきて、重要なことに気がつきました。これでは、捕まえた人が実際にテトラヒメナをみることができないまま、送ってもらうことになります。テトラヒメナを身近な存在にすることを目指すテトラハントとしては残念すぎます。

ちょうどそんなときに訪れた北大電子研で、共同研究者の西上幸範さんから、ガラスビーズを使った手作り顕微鏡を学生実習で作っているという話を聞きました。そのガラスビーズをトラップに付けてしまえば、そのまま中にいるテトラヒメナがみえるのでは?というアイデアが浮かんできました。雑談も馬鹿にはできません。

そこで、早速作ってみました。名付けて「クライオチューブ顕微鏡」です。原理は、300年以上前にレーウェンフックが世界で初めて繊毛虫を実際にみた顕微鏡と同じで、直径約2 mmのガラスビーズをクライオチューブのキャップに埋め込んだ単眼顕微鏡です。ちなみにガラスビーズは、1キロ3,000円くらいで買えます。

           

このクライオチューブ顕微鏡は、蛍光灯に向かって直接目に近づけると、ビーズの向こうの拡大像がみられるのですが、慣れないと焦点を合わせるのがとても大変です。そんなときは、スマートフォンのカメラが便利です。まずはスマホを自撮りに設定にします。クライオチューブのキャップを下にしてカメラの真ん中にガラスビーズが来るように合わせます。そのままでは暗いので、LEDライトで照らします。すると、スマホのオートフォーカス機能でピントが合うので、突然、わっと動くテトラヒメナがみえるようになります。

これまでに、私たちの独自調査で、少なくとも4種のテトラヒメナが基礎生物学研究所のある愛知県内で見つかっています。

トラップを使ったテトラヒメナ全国調査は、もうすぐ始まります。ご協力いただける方には、クライオチューブ顕微鏡にもなるトラップなど、採集に必要なものがすべて入ったキットに、返信用着払い伝票も付けてお配りする予定です。テトラヒメナがいそうな池が頭に浮かんだみなさま、小中学校学校の先生、生徒の皆さん、もちろん大学の学生や関係者の方々もご連絡お持ちしています。

まだまだ始まったばかりのプロジェクトなので、もっとこうした方が良いのでは、などなど、みなさまのご意見をお聞かせいただけますととてもうれしいです。

テトラハントは、2024年度の科研費の助成を受けて実施に至りました。この場を借りてお礼申し上げます。

テトラハントの申し込みはここから。

X: Tetrahunt (開設予定)

ホームページ(開設予定)

 

 

投稿者プロフィール

片岡研介
片岡研介基礎生物学研究所 クロマチン制御研究部門 助教
テトラヒメナの大規模ゲノム再編を研究しています