便利なもの
現代は物があふれ、何がよいのか判断しにくいことが多い。あるラボでは必須のツールとして利用されている一方、他のラボではその存在すら知られていないことも珍しくない。この記事では、私自身が使ってみて便利だと感じているツールを紹介したい。ここで紹介するツールのいくつかは、最近出版された『生命科学研究のためのデジタルツール入門』でも取り上げられている。
Slack:ラボ内の情報共有は基本的にSlackで行い、メールを使うことはあまりない。ラボのメーリングリストはない。各プロジェクトに関するチャネル、発表要旨や申請書に関するチャネルも全員に公開し、情報を共有するようにしている。一般的な業務連絡に関するチャネルに加えて、以下のようなチャネルがある。
*プロジェクト:各プロジェクトに関するチャネル。日々の実験に関するディスカッションから論文執筆に関するやり取りまでラボメンバー全員で共有している。
*論文:関連論文を共有している。
*学会:学会で聞いた発表の内容を共有している。食べ物の写真も。
*申請書:学振や研究費の申請書を共有している。学振の申請書にはスタッフや学生がコメントし、全員が見ることができる。自分の申請書も共有している。
*発表:卒論・修論・博論・学会発表の要旨や発表スライドを共有している。スタッフや学生がコメントし、全員が見ることができる。自分の発表スライドも共有している。
*論文執筆:論文執筆に関する情報を共有している。論文を添削していて気になったこと、CueMolやイラストレーターを用いた図の作り方に関するTipsなどを共有している。
*週報:研究の進捗・計画を共有するチャネル。重要な実験結果をスライド1-2枚にまとめて共有している(1-2週間に一回報告)。やったことを逐一詳細に書く必要はないが、一見些細なように思える実験条件(濃度、量、温度など)が重要なことがあるので、これらは書くようにしてもらっている。ラボメンバー全員で実験ノートを見せながら進捗を簡潔に共有するミーティングを週一でやってみたが、時間がかかりすぎるため、週報をSlackで共有することにした。数か月に一度のラボミーティングのディスカッションで、こうしていればよかったのに…ということが減るはず。
GPT-4o:主に文章の校正に使っている。非常に便利。プロンプトはシンプルな「proofread this: 」や「refine this: 」をよく使っている。役割などの情報を与えなくても、日本語でも英語でもいい感じに校正してくれる。これだけでも課金する価値があると思う。投稿論文やメールなど様々な英文のチェックに使える。学生の発表要旨の英文校正にも便利。GPT-4oの利用によって、論文執筆の効率が向上した。ただし、(いまのところ)GPT-4oに実験データを入力するだけで論文が完成することはないし、GPT-4oの校正案が必ずしも正しいとは限らない。したがって、テクニカルライティングの能力を身につけることは依然として必須であり、むしろ、GPT-4oを有効活用するためにもその重要性が増していると感じる。
*「proofread this: 文章」:文章を校正してくれる。不完全な文章を与えると適当につなげて文章にしてくれるので、不完全な箇条書きからドラフトを作成する使い方もできる。また、「proofread this, change "ul" to "μL", add a space between value and unit: 文章」のようなプロンプトを用いると、単位やスペースなどの書式を修正してくれる。書式の揃っていない文章の修正に便利。
*「refine this: 文章」:「proofread」よりも大きく変えてくれる。
difff:テキスト比較ツール。GPT-4oで修正した前後の文章を比較するのに便利。開発者の内藤さんもこの使い方をしているとのこと。
Snipping Tool:PC画面のスクショツール。ワードやパワーポイント、Slackなどに図を挿入するのに便利。発表スライドや申請書などには、イラストレーターで作成した図を画像ファイルとして保存せずに、画面をスクショして貼り付けている。サイズの大きい画像ファイルの変換にも使える(TIFF画像をスクショして貼り直すとJPEGにできる)。
Benchling:DNAなどの配列情報管理ツール。アノテーションの作成から翻訳産物(タンパク質)の解析(分子量、モル吸光係数、pIなどの計算)、シーケンシングデータとの照合、他人との配列共有など色々なことができて非常に便利。海外の共同研究者もみんな使っている。
Plasmidsaurus:Nanoporeを用いたシーケンシングサービス。プライマーなしでプラスミド全長をシーケンスできる。サンガー法と併用している。共同研究者から送られてきたプラスミドや引き継ぎのプラスミドを確認するのに便利。謎のプラスミドに悩まされることがなくなる。サンガー法で読みにくいリピートを含むプラスミドも読める。使う前は必要性を感じなかったが、使ってみると非常に便利なことがわかった。
Googleドキュメント:論文はGoogleドキュメントで共有して執筆している。引用文献はPaperpileで挿入している。iPhoneで作業できるのも便利。海外の共同研究者もみんな使っている。
Paperpile:文献管理ツール。論文に文献を引用するのに使っている。Googleドキュメントにも挿入できる。文献管理ソフトとしても便利。几帳面な学生は有効活用している。海外の共同研究者もみんな使っている。
GraphPad Prism:グラフ作成ツール。生データからSDやSEを自動的に計算できたり、全てのデータポイントを示せるのが便利。Prism Magicで表示形式を統一できるのもよい。海外の共同研究者もみんな使っている。
Illustrator:論文の図はイラストレーターで作成している。海外の共同研究者もみんな使っている。普段はあまり使っていないが、画像生成もできる。サムネール画像は「道具を示すアイコンをつくって」というプロンプトで生成してみた。論文の図作成に関しては、以前(もう10年)に書いた記事が役に立つかもしれない。https://www.pssj.jp/archives/essay/Es_04/Es_04.html
必須だが意外と知られていないことがあるTips。
*レイヤー:枠線、画像、ラベルなどは別のレイヤーで管理している。パワーポイントにもほしい。
*HSB:色はRGBではなくHSBで指定すると扱いやすい。配色を考える際はカラーホイールが役に立つかも。
*中央揃え:文字は中央揃えにすると扱いやすい。
*スポイト:オブジェクト間でカラーなどのアピアランス属性をコピーできる。
*ダイレクト選択:アンカーポイントを選択できる。四角形のオブジェクトを作成し、ダイレクト選択を使って一辺を削除すると、3つの直線を連結するよりも簡単に [ を作ることができる。
*選択→共通:共通のプロパティをもつオブジェクトを選択できる。
*キーオブジェクトに整列:基準となるオブジェクトに対して整列できる。
*等間隔に分布:オブジェクトをキーオブジェクトから決まった距離だけ離して配置できる。
*解像度を指定してPDFで保存する:「圧縮」→ 300dpiを超える場合300dpiと設定すると、画像の解像度が300dpiのPDFとして保存できる。プリセットに登録しておくと便利。
*「Alt+ドラッグ+(Shift)」:オブジェクトをコピーする。
*「Ctrl+D」:前の操作を繰り返す。「Alt+ドラッグ」→「Ctrl+D」で連続コピーできる。
*「Ctrl+F」:コピー元と同じ位置にペーストする。枠線やFigure Xのラベルなどを別のアートボードの同じ位置にコピーするのに便利。
*「Ctrl+7」:クリッピングマスクを作成する(画像のトリミング)。ゲル画像はフォトショップで加工(角度補正、レベル補正、適当な大きさにトリミング)、PNG形式で保存した後、イラストレーターで編集している(クリッピングマスクで最終的な大きさにトリミング、ラベルや線の追加など)。同じ大きさの四角形を用いてトリミングすると、複数のゲル画像の大きさを統一できる。
*パスの変形:直線を波線などに変形できる。
*パスファインダー:オブジェクトの合体や型抜きなどができる。
*ナイフ:オブジェクトを分割できる。
*スマートガイド:塩基配列の模式図などは、スマートガイドあり「Alt+ドラッグ+Shift」で隣接したコピーを作成、「Ctrl+D」で複製すると簡単に作れる。
*リンクを再設定:画像を置換できる。
*アウトライン:ごみオブジェクトを探すのに便利。
乾燥機付き洗濯機:とても便利。ラボメンバーには使用を推奨している。意外と普及していない。一人暮らしなら小型乾燥機の導入だけでもQOLが上がると思う。