iGONAD2022 (3) complexのインジェクションとエレクトロポレーション

iGONADの効率はとても良いので、短いタグ配列のノックインや点変異の挿入などであれば、3,4腹にエレクトロポレーションすれば目的の組換え体が取れています。本当に画期的な技術です。大塚さんのiGONADのおかげで変異体解析が気軽にできるようになり、自分自身のサイエンスの寿命が20年以上伸びた気がします。以下、実際の手順で引っかかったところとその改善策など、新規に導入される際にご参考になれば。

始めたばかりのときは卵管へのインジェクションが一番ハードルが高く、ここで心が挫けそうになってしまったときもありました。ビギナーズラックでうまくいったと思ったら、針が卵管突き抜けたり、入れてる途中で針が折れたり、先が詰まって液が出なかったりと、当初は試行錯誤の連続。個人的に一番苦労したのは手の震えを抑えるところで、これはsteady handsを持っている人であれば全く問題がないのでしょうが、なかなかそうはいかないのが実情です。たまたまうまくいく、というレベルから、私失敗しませんから、のレベルになるのに大いに役立ったのが、アルミホイルの手載せ台です。自分の手の形に合うように型を作ってその上に手を乗せれば、震えを大幅に抑えることができます。

左手用手載せ台

右手用手載せ台

左手を載せたところ

右手を乗せたところ

 解剖の準備ができたら、complexをニードルに吸い上げます。このあたりの手順は以前のブログ記事に詳しく書いてあります。ポイントとしては、

  • 針先の径はマイクロフォージで折って一定の大きさに揃えておいたほうが良い
  • 針は卵管ごとに代えるとcomplexが汚れなくて良い(翌日以降も使いたい場合)
  • 溶液を可視化するためのFastgreenはcompexをとったあと針先にちょっと入れるだけで十分(complexに入れてしまうと翌日以降使うために長期保存するときになんか心配

といったところでしょうか。

溶液のロードが終わったらいよいよインジェクションです。卵管の形は色々あるのですが、大きく分けて、入れたい卵管の奥側に膨大部があるときと、手前側にあるときがあります。まずは操作がしやすい前者から。

膨大部の上流側にある卵管をピンセットでしっかりと握ってやり、針をぶすっと刺してやります。感覚的には鶏皮を串に刺す感じ。卵管は結構グニョグニョなので、ピンセットを右に、針を左に動かす気持ちで刺すとすんなり入ります。

卵管をしっかりとピンセットでつまんで針先にかぶせるようにすると入りやすい

次に、入れた溶液が逆流しないように、ピンセットでそーっと優しく卵管越しに針をホールドする必要があるのですが、ここで、ピンセットの先の面が針と平行になるのがポイントです。さもないと、せっかくうまく刺さった針先が折れてしまいます。

ピンセット先の面を針と並行にするのがポイト

色々やり方はあるのだと思いますが、卵管を掴んでいるときとピンセットの角度がだいぶ違うので、左手の手首を返してやるとやりやすいと思います。

インジェクションしているときの左手

卵管を挟んでいるときの左手

今度は、入れたい卵管の手前に膨大部が来ているとき。ごく自然に卵巣を引っ張り出すと、左右対称ですので、2つに1つはこのタイプの卵管に出くわします。このタイプは膨大部が邪魔してちょっと操作しにくいのですが、卵管をしっかりと支えてやれば針は入ります。

膨大部が邪魔してちょっと持ちにくいが横の方から手前に引っ張り出してしっかりと卵管を支えてやる

ホールドするときは左手の位置を思い切って変えて、横から支えるようにするとすんなり支えられます。

左手の位置を思い切って変えると膨大部に邪魔されずに卵管ごしに針をホールドできる

インジェクションが終了したら、卵管の膨大部をもみもみしてあげて、complexが均一に卵塊に染みていくようにします。昼夜のサイクルにもよるのでしょうが、僕が通常インジェクションを始める午後3時頃ですと、まだ卵塊がしっかりとしていて、そのままだと端の方だけの卵だけにエレポされるような気がしています。気がしているだけかもしれませんが、、、

beforeもみもみ。膨大部の卵塊部分が白く抜けているのがわかる。

afterもみもみ。青い溶液が膨大部に均一に行き渡っている。

complexの膨大部へのインジェクションさえ終わってしまえば、エレポ自体は全く難しいものではありません。気をつける点としては、電極の距離が近すぎると電流が流れすぎる(離しすぎるとその逆)、電極をPBSにひたして、そのままPBSで卵管部分をひたひたにするのですが、その量が多すぎると電流が流れすぎる(少なすぎるとその逆)、という点で、特にNEPA21でエレクトロポレーションする場合は定電流モードがないので、そのあたり、適宜調節する必要があるかと思います。ただ、エレクトロポレーション後に流れた電流が表示されるのですが、流れすぎた、流れなさすぎた、と思ってもうまくいっている時もあり、実際に卵管部分に流れている電流を計測できているわけではないので、そのあたりはあまり気にしなくてもよいのかもしれません。

一応、膨大部が手前にあるタイプと、膨大部が奥にあるタイプのインジェクションからエレポまでのYoutube動画を貼っときます。片方はYoutube曰く18禁です。なぜもう片方が18禁にならないのかよくわかりませんが、まあ、あまり広く一般に宣伝するタイプの動画ではないのは確かかも。。。

その他、iGONADに必要な一連の機器や解剖道具について、カタログ番号などこちらのページにまとめてあります。導入の際に参考にしていただければ幸いです。