MBSJ2023の歩き方(一日目)

 

いよいよ来週から分生です。分生といえば師走。師走といえば分生。業界の人にとってはすっかり冬の季語になっている分生ですが、RNA学会や発生生物学会、細胞生物学会などと比べて大きく異なるのはやはりその規模。かつてポートアイランドに住んでいたことがあるのですが、あの人工島にあれだけの人があふれかえるのは、分生か、コミックライブ(行ったことはないですが)ぐらいでした。だいぶ客層は違いますが、好きなことへののめり込み度で言うと意外と共通点があるのではないかと、アニメからまんま出てきたかのようなコスプレのおねえさんやおにいさんが会場脇の植え込みからのそっと出てくるのを見るたび、奇妙な親近感を覚えていたものです。

話がそれてしまいましたが、分生といえば海外ゲスト招聘、というのも、業界の仲間内ではいつの間にか定着していて、これも毎年の恒例行事になっています。日本でのドメスティックな学会は絶対日本語でやったほうが良い、専門外の人とも言葉の壁なく交流できるし、母国語でサイエンスを語れるというメリットを最大限活かしたほうがその先にある真の国際化につながる、と、僕自身は色々なところで口角泡を飛ばして力説しているのですが、なぜか分生では英語のシンポジウムの企画をしたくなっちゃうのが、人間の不思議なところです。なんでだろう。いくつもパラレルセッションがあるので、ちょっと微妙に専門外の分野の動向を知りたいときは日本語のセッションへ、ストライクゾーンど真ん中の分野は海外のトップ研究者の話が聞ける英語のセッションへ、というのができるというのが大きいんでしょう。スケールメリットといいますか、コミックライブみたいに(行ったことはないですが)色んなジャンルのセッションがあって、自由気ままに、興味の赴くまま会場を回れるところが、メタ学会とも言える分生の一つの大きな魅力であるのは間違いのないところかと思います。

というわけで、恒例の(ここ2,3年サボっていた気もしますが)、RNA/IDR関連分野のシンポジウムおよび海外ゲストの紹介です!

初日12/6には計画班の廣瀬と甲斐さんが企画されたシンポジウム
[1AS-10]Advanced research tools approaching machinery and condensates assembled with ncRNAs
が国際会議場の3階のRoom10会場であります。あの長ーいエスカレーター上がっていったところですね(たぶん)。RNAが作る凝集体の解析に使う様々な技術の見本市!で、RNAが相互作用するクロマチンを取ってくるRADICL-Seq、生体内のBioID、ハイブリダイゼーションベースでビオチンを飛ばすHyProなど、RNA屋にとっては垂涎ものの技術がもりだくさん。そのほか生殖系列のgerm garanuleの話や核内ストレスボディの話などもあります。

このセッションの海外ゲストの一人はKing’s Colleage LondonのEugene Makeyevさん(https://www.kcl.ac.uk/people/eugene-makeyev)。HPにのってるお写真はこちらです。

professor-eugene-makeyev | Wolfson Institute for Biomedical Research - UCL  – University College London

Makeyevさんを初めて知ったのは2018年のこちらのMol Cellの論文。短いリピートを持っているRNAってたくさんゲノムにあるよね、という話から始まって、それらをstrRNA (transcripts enriched in short tandem repeats) と命名し、その発現や局在を徹底的に調べたお仕事。中でも、PNCTRと名付けられたncRNAは、知る人ぞ知る核小体近傍の構造体perinucleolar cap (PNC) に局在し、ノックダウンするとPNCが壊れるという、まさにPNCの骨格RNA、arcRNAとして機能しているncRNA。Gomafuとの出会い以来、こういうncRNAを見つけたい、とずっと思っていたので、ドキドキしながら論文を読んだのをよく覚えています。ちなみにPNCTRはPNCの骨格RNAということで命名したと思っていたんですが、よく読んでみるとpyrimidine-rich noncoding transcript。もっと踏み込んでいいと思うのに、恥じらう乙女のようになんともmodestな命名です。先日ロンドン近郊であったRNA granule meetingで初めてMakeyevさんと初めてお話をする機会があって、なんでPNCにからめて名前つけなかったの?と聞いたところ、「XXXXXX」。へーなるほど、と、その時は思ったものの、お酒をいただきすぎたのか、全然内容覚えてないんですよね。二人で盛り上がってテーブルのワインのボトル空けまくってたからかもしれません。最近アルコールが入ると、別に泥酔しているわけでもないのに話した内容を翌日全然覚えていなくてお恥ずかしい限りなのですが、そこはぜひ知りたいところなので、今回あったらまた同じ話を聞いてみたいと思います。たぶん彼も覚えていないでしょうし。

話がまたそれてしまいましたが、Makeyevさん、そんなこんなで新規ncRNAの研究を進める傍ら、ncRNAが作る複合体を同定する新技術の開発も進めておられます。そう。ncRNA研究にとって複合体の同定はまさにアキレス腱。ChIRPにCHARTにRIPに、様々な技術が開発されていますが、基本的にどれもlysateの中でプローブを標的のRNAにハイブリさせます。一方、Eugeneさんが開発したHyProという方法では、in situ hybridizationをそのままbiotin ligationに持って行っているところが、斬新です。ビオチンラベルまでin situでやるので、バックグラウンドを劇的に減らせるというところがミソです。2002年のMol Cellに発表されたこの論文(https://doi.org/10.1016/j.molcel.2021.10.009)を読んで、なんでこれまで誰もやらなかったんだろう、まさにコロンブスの卵!と、こちらも大いに感銘したのをよく覚えています。実はこの2つの論文、結構内容が違うので、どちらもMakeyevさんの論文だと知ったのはつい最近。StanfordのHoward Changさんもそうですが、キレる人はなにやってもきれいな仕事をするんだなあと、感心ひとしきりでした。

もう一人の海外ゲストはMDI Biology laboratoryのDustin Updikeさん(https://mdibl.org/faculty/dustin-updike-ph-d/)。HPのお写真はこちら。なんか貫禄がすごい。同級生から敬語で話しかけられるタイプ??(なんのこっちゃ)。

Dustin Updike - Graduate School of Biomedical Science and Engineering -  University of Maine

MDIのフルネームはMount Desert Island Biological Laboratoryということでアメリカはマイン州にある研究所だそうです。恥ずかしながらアメリカの地理は詳しくなく、マイン州という州があるのを初めて知ったのですが、Wikiによると、USA内の州の中で、接している州がたった一つである唯一の州らしいです。うん。こういうのをどうでも良い知識というのでしょうが、Wikiのどうでも良い知識、好きです。日本でいうと長崎県みたいなものでしょうか。ホームページだと風光明媚な自然豊かな環境にある研究所のようで、こんなところで研究してみたいと少しでも思った学生さん、ぜひ直接お話を!

Upidkeさんのお仕事は線虫のP granuleのお話です。P granuleは日本ですと東北大の杉本亜沙子さんのお仕事で馴染みのある方も多いと思います。BrangwynneさんがWoodsholeのSummer courseでライブ観察をしている時に、あれ、これって液滴じゃん、といって今のLLPS研究の隆盛の礎になるあの論文を書くきっかけとなった、あのP granuledです。ちなみに僕はP granuleはPolar cellのPだと思っていたんですが、PosteriorのPなんですね。線虫では細胞系譜が完璧に調べられていて、しかもそれが再現性良く行われる奇異な動物なわけですが、最初の分裂で頭側にある割球がAntiriorでA、尾側にある割球がPosteriorでP、さらに3回分裂して、Posterior側へと分裂しつづけた細胞がP4、そこから全ての生殖系列の細胞が作られるのでP系列と。P granuleには生殖系列の細胞分化に必要な因子がギュッと詰まっているわけですが、今回のUpdikeさんのお話はそのなかでもpiRNAによるサイレンシングに関わるLOTR-1のお話です。おそらく最近のPLOS Geneticsに発表されたこちらの論文の話が中心になるのかと、思います。

初日はその他にもRNA/IDR関連のセッションがたくさんありまして、

[1AS-02] 相分離生物学の再検討
こちらは筑波大の延山さんと大阪公立大の三浦さんのセッションですね。液滴祭り。

[1AS-07] 神経機能におけるタンパク質/RNA恒常性の破綻
ふえ〜。これも見逃したくない、熊大の塩田さんと本領域の計画班の分担の森本さんのセッション。神経変性疾患がらみのRNAの話題がもりだくさん。

[1AS-11] 動的高次構造体を介した遺伝子発現制御
なんとなんと。これも超relevantな話題。こちらは理研の岩崎由香さんと東大定量研の深谷さんのセッション。遺伝子発現制御ーゲノム構造ー細胞内の構造体、あたりが繋がってくる話で興味深いところです。このセッションの海外ゲストは分生前日に開催される本領域共催の理研シンポジウム(https://sites.google.com/keio.jp/trc/KRC2)でも話されるので、どちらも見たい!というかたはこちらの方もぜひご利用ください!

午後にもRNA関連のセッションは有りまして
[1PS-14] 機能性ノンコーディングRNAが制御する生命機能
こちらはがん研の斉藤典子さんと東大の秋光さんのセッションですね。染色体分配を制御するノンコーディングRNA、ゲノム安定性を維持するノンコーディングRNA、転写後遺伝子調節のノンコーディングRNA、まさにノンコーディングRNA祭り。

次の記事では2日目以降の紹介をしたいと思います。しかしまだまだ先だと思っていた分生、あっという間に数日後。記事、間に合うんだろうか。。。