MBSJ2023の歩き方(二日目)

分生二日目もRNA/IDP周り、熱いです。Hotです。情熱の赤いバラです。まず午前中のセッションを見ていきましょう。

[2AS-17] 長鎖非コードRNAの機能発現プログラム-lncRNAと結合タンパク質の分子生物学-
毎年恒例の埼玉医科大の黒川さんオーガナイズのノンコーディングRNAセッション。co-organizierはこちらもおなじみ京大の片平さん。ノンコーディングRNAづくし、のセッションです。RNAやRBPの構造の話が中心かな、と思いきや、非膜オルガネラの話から本領域の椎名さんのシナプス形成の話まであって、幅広い話題がカバーされています。日本語のセッション、かつ、ショートトークが多いので、カジュアルな感じに楽しめそうです。それにしても黒川さん、もうかれこれ15年ぐらい毎年毎年ノンコーディングRNAまわりのセッションを組んでくださっているのではないでしょうか。僕も一回ご一緒させていただいたことがあるのですが、毎年毎年、とても楽しみにしているセッションです。

[2AS-07] 転移因子コードが誘導する3次元核内構造形成
これも意外とRNA/IDRのflavorがするセッションで、理研のシャリフさんと、名大の日比野さんがオーガナイズされています。去年の分生でも似たトピックのシンポジウムがあって、とても楽しかったです。個人的にはレトロトランスポゾン、RNA、核内構造はストレートど真ん中なので、こういうセッションを見ると、おっ、おっ、という感じです。こちらも基本日本語のセッションですね。

しかしそれにしても行きたいセッションが多すぎる!専門分野以外でもちょっと除いてみたいセッションが盛りだくさんで、もったいない気もしますが、その分あとであの話どうでした、こちらのセッション出られましたか、みたいな会話も盛り上がるので、それはそれで良いのかも。

そして午後のセッションもRNAてんこ盛りです。

[2PS-10] アジアにおけるRNA-核蛋白質複合体分子生物学の最前線
こちらは藤田医科大学の前田さんと台湾の中央研究院の譚さんのセッションで、スプライシングを中心に様々なRNAの話題が詰め込まれています。このセッション、日台ジョイントシンポジウムの趣もあって、つい先日昔のRNAさきがけの研究者を中心に台湾を訪れて現地のRNA研究者と交流するイベントがあったのですが、その時にお会いした方もちらほら。特に印象的だったのはこのセッションでもお話をされる林倩伶さんのお話で、イントロンの配列の変異を片っ端から解析して、そこから機械学習等を駆使して法則性を見出そうという、極めて野心的でスマートなお仕事。HPのお写真はこちらです。

Lin, Chien-Ling

どーでもいいですがカタカナで書くと林倩伶さんはチェンリンリンさんになると思うのですが、ノンコーディングRNA研究でおなじみのLingling Chenさんをカタカナで書くとリンリンチェンさんなんですよね。はい、リンリンチェンリンリンチェンリンリンチェンと早口で言ってみると、、、いつのまにかチェンリンリン!とこれまたどうでも良いことで話がそれてしまいました。

ともあれ、先日台湾を訪れて強く思ったのは、もっともっと、アジアの各国間で気軽に行き来ができる機会がもっとあったらいいのになあ、ということでした。今秋は珍しく出張が続いて、その直前にはドイツで開催されたEMBL meetingと、イギリスはロンドン近郊のHorselyで開催されたRNA granule meetingをハシゴしたのですが、改めて驚いたのは、ドイツとイギリスの近さです。ロンドンとフランクフルトは想像以上に近くて、体感的には新千歳から羽田ぐらい。ヨーロッパの人たちは各国間の交流が盛んで、そりゃこれだけ距離が近ければ交流も盛んになるよな、とは思ったのですが、ここであらためてGoogle earchで実際の地図を見てみると、

ヨーロッパがすっぽり入る大きさは、大体日中韓台がすっぽり入るぐらいの大きさです。そしてよく見ると、よく見なくてもそうですが、日本と韓国は近い。日本と中国とも近い。このエリアでは日本(北海道)と台湾が一番離れていますが、それでも飛行機で3、4時間も乗れば着いてしまいます。この距離的な近さのわりには、東アジアの各国間の交流は、欧州の各国間の交流に比べて、少ないような気がします。いや、少なすぎると言ったほうがよいかもしれません。日本で国際ミーティングというと、金髪碧眼の欧米の研究者が来日することを真っ先に思い浮かべる方が多いと思いますが、別に距離的に近い国で集まったとしても、立派な国際ミーティングです。なんで、近隣の国で、もっと集まらないんでしょう。不幸な歴史が過去にあったから?いやいや、それを言い出したらヨーロッパの国々のほうがはるかに激しくはるかに長期間にわたり有史以来からドンパチやってきたはずです。ケンブリッジUKのパブで、なんでイギリスはインチとかヤードとか使ってメートル使わないの?という話題のときに、パブのマスターと周囲の客が異口同音で、Because its French!と笑顔でハモっていたのには大笑いしましたが、不幸な歴史は背負いつつ、ユーモアに包んで未来思考で行きたいものです。結局のところ、東アジアの各国で集まる機会が極端に少ないのは、集まるメリットがない、という、根拠のない先入観があるからなのではないでしょうか。確かにアジアのサイエンスでは日本が突出している、そういう時代もかつてはあったのかもしれませんが、令和の今日び、もはやそんなことはないというのは多くの人にとって共通認識かと思います。個人的には、理事会のメンバーは日本人だけ、参加者もほとんど日本人、という国内の学会を完全英語化するのではなく、それはそのまま母国語でコミュニケーションが取れる貴重なプラットフォームとして残しつつ、多国籍のorganizing comitteが運営するミーティングに東アジアの各国の人達が定期的に集い、そこで英語という共通言語を使って交流する、そういう場があればいいのにな、と、切に思います。

話をぐっと元に戻して、本領域の冠シンポジウム、ではないのですが、領域の公募班の井手聖さんと金沢大の佐藤はなえさん主催の超おすすめシンポジウムがこちらです。
[2PS-13] カタチをとらないバイオポリマーの機能と起源~非ドメイン生物学
しれっと領域の名前を入れておきながら冠シンポジウムの供与金を出さないのはずっこいと年会長に怒られそうですが、充足率が低すぎて総括班のお金ないんですもん、と言い訳させてください。でも豪華ゲスト招聘してます!

まず一人目はSt. Hude Children’s Research HospitalのRichard Kriwackiさん。名前が覚えられない?そういうときは漢字ですよ漢字。栗脇さんです。はい。ほらもう覚えてしまいましたね。HPのハリウッドのダンディーな俳優さんみたいなお写真はこちらです。

Richard Kriwacki, PhD | St. Jude Progress

栗脇さん、いや、Kriwackiさんといえば、核小体の流動性にrRNAが関わっているという、Brangwynneさんとの共著のこちらの論文とか、S. pombeのNuceophosiminであるFkbp39というタンパク質が核小体内においてrRNAをエスコートしてコンパートメント間での移動を助けていることを示したこちらの論文とかで、核小体のエキスパートという印象が強いですが、実は長年に渡ってIDR関連の研究をされていて、古くは1996年に、cdk inhibitorであるp21のN末端側の領域は特定の構造を取りにくく、その性質がcdkとの柔軟な結合を仲介しているいう論文を発表されています。言ってみれば、天然変性領域研究の勃興期から今日のLLPS隆盛期までずっと分野を眺めてこられた生き字引の研究者。最近、やたら自分の仕事が核小体がらみの話題に収斂していくので、その当たりの分野の変遷も含め、色々お聞きしたいところです。Kriwackiさんは、分生前日の理研シンポジウム・Kansai RNA Clubにも参加されますので、上述のシンポと重なった方はそちらで!

このシンポジウムのもう一人のゲストはボルチモアはJohns HopkinsのDanfeng CaiさんでHPのお写真はこちらです。

Caiさんは、初日のシンポジウムのオーガナイザーの深谷さんのお仕事に近い、転写エンハンサーが作る分子集合体の生化学的な解析とイメージングをされている、新進気鋭の研究者です。今回のお話は、最近のbioRxivに出ているYAPが作る分子凝集体と転写制御のトピックでしょうか。つらつらとpublication listを見ていたら、なんと懐かしいE-cadherinの文字が!細胞接着とcollective migrationは実は30年前の僕の学生時代の研究テーマで、妙な親近感を感じるところです。細胞生物学分野出身ということで、イメージングへのこだわりも納得。接着> Hippo > Yapとシグナルが伝わるように、お仕事、も核の中へ、核の中へ、行ってみたいと思いませんかー、みたいな感じで移っていったのでしょうか。まさに研究というのは旅人だなあ、と思います。

あーよかった間に合った。昔分生の前日になってゲストの紹介を空港で書いていたら飛行機乗り過ごしたこともありまして。ダッシュでゲートに行ったら誰もいなくて泣きそうになりました。ちょっと一安心。次の記事では3日目のRNA/IDR関連のセッションを見ていきたいと思います。