MBSJ2023の歩き方(三日目)
いよいよ分生最終日、3日目のRNA/IDR関連セッションを見ていこうと思います。
まずは午前中のセッションですが、ズラリ海外スピーカーが並んだセッションがこちら。
[3AS-10] mRNA翻訳に支配される生物・疾患
オーガナイザーはUniversity Texas Health Science Center at San Antonioの森田斉弘さんと、Karolinska InstituteのLarsson Olaさん。お二方とも海外在住?ということで、国内にいるとお目にかかる機会はなかなかないのですが、翻訳の大御所、故古市さんの盟友、Nahum Sonenbergさんのところで研鑽を積まれたお二方ならではの、翻訳づくしのセッションです。森田斉弘さんはその前は山本雅さんのところでmRNAの分解のお仕事をされていたようですね。僕自身はタンパク質に翻訳されないノンコーディングRNAの研究からRNAの分野に入っていったこともあり、翻訳は、敵、いやそんなことないです、むしろ、憧れ、というか、長い研究の歴史に裏打ちされた精緻な生化学の世界に、羨ましさと、畏怖に近い近寄りがたさを感じていたところがあります。特に、eIF4aとかeIF4eとかeIF4gとか、知っている人にとっては二宮くんと櫻井くんと松潤ぐらい違うんでしょうが、ちょっと専門外の人間にとっては、一文字しか違わない名前を聞いて個別のユニークな機能をクリアーに思い浮かべるのは難易度が高く、全員イケメン、なんかすごそう、の域を出ることがなかなかありませんでした。ところが近年のribosome profilingの登場で、この業界が一気に身近になった感はあります。新しい技術というのはそれぞれの分野を大きく発展させるというのはもちろんのことですが、それまで馴染みのなかった業界が急に親しく思えるようになる、そういった効果もあるのかもしれません。
で、このスピーカーリスト。
Erik Storkebaum (Donders Institute, Netherlands)
Luc Furic (Monash University, Australia)
Maria Hatzoglou (CWRU, USA)
Kathleen Watt (Karolinska Institute, Sweden)
Yvan Martineau (Université Toulouse, France)
Lynne Postovit (Queen’s University, Canada)
Ivan Topisirovic (McGill University, Canada)
この他に名古屋大の松本有樹修さんですが、それ以外、全員海外在住の方ではないですか。旅費どうしたんだろう。まるで欧米のシンポジウムのようで、内容も翻訳一辺倒でなく、ストレス応答や、がん、神経疾患など、具体的な生理現象につながる話がもりだくさん。これは見逃せないところです。とはいえ、またまたパラレルセッションで関連のセッションがあるんですよね。ほんと悩ましい。それがこちら。
[3AS-02] 生体分子凝縮体を介するストレスへの適応機構
こちらは山口大学の中井彰さんと東大医科研の武川睦寛さんオーガナイズのシンポジウム。ストレスによって形成される顆粒、もしくは非膜オルガネラ、相分離構造体、whatever、これらはRNAとIDP/IDRの協奏曲みたいなものなので、どの話も馴染み深く、また興味深いところです。RNAがらみだと東大アイソトープセンターの秋光さんがHiNoCo-bodyの話をされるようですね。
そのほか、RNA/IDPと直接の関係はありませんが、こちらのシンポジウムも結構relevantな話が
[3AS-16] 幹細胞生物学におけるエピジェネティック制御機構
先日のEMBLのNoncoding Genomesでも、一昔前のnoncoding RNA一辺倒の頃とは様変わりして、enhancer/transcription factory/epigeneticsの話が半分ぐらいありました。このシンポジウムのグラフィカルアブストラクトを見ていると、何かとそそられる話題がいっぱい。
うーん。どこ行こう。悩み悩み抜いて両取り逃げるべからずで別のセッションに行ったりして。。。
そして午後。この時間帯になると、なんかもの寂しい気分になるんですよね。いつも。RNA Societyの年会はプログラムの最後はダンスパーティーですが、そういうイベントが最後にあると、また違った雰囲気で最終日を楽しめるのかもしれません。最終日か、、、でなくて、最終日だぜカモンベイビー!みたいな。
最後のセッション枠でも、コアなRNAのセッションが2つあります。まず最初は
[3PS-03] RNAが織りなす生命現象の新展開
東大の片岡直行さんと藤田医科大の藤田さんオーガナイズのこちらはRNAプロセシングのトークが中心ですが、RdRPの話あり、tRNA修飾の話あり、疾患関連のRNA結合タンパク質の話あり、さながらミニRNA学会みたいです。比較的短い日本語のトークがずらりと並んでいるので、二日目の黒川さんのシンポジウム同様、カジュアルにRNAワールドを楽しめそうです。
さらに、この2つ枠がぶつかるんだあ、というもう一つのミニRNA学会風セッションはこちら。
[3PS-17] mRNA翻訳ネットワークによる真核生物の生命制御
オーガナイザーは琉球大の山下暁朗さんと近大の藤原俊伸さんです。お二人をご存知な方も多いと思いますが、パワー全開。なんとdeepなメンバー。コアコアな翻訳セッションです。上の方にも書きましたが、翻訳のコアな世界はほんのちょっと前までは素人的には伝統芸能みたいでとっつきにくい世界でしたが、リボソーム停滞とか翻訳品質管理機構とかuORFの話とか、伝統芸能だった業界に新しい風が吹いて、いまはむしろ時代の最先端のロックな世界、という気もします。ロックはむしろ古いか。ニューミュージックはもっと古いし、J-POP? K-POP?
そして、もう一つ。RNAがタイトルに入っているセッションがこちらです。
[3PS-07] RNAとウイルスの相互作用
埼玉大の高橋朋子さんと大阪公立大の堀江真行さんがオーガナイザーのこちらのセッションは、RNAという分子から見たウイルスー宿主間相互作用ということで、ウイルスと戦うmiRNAやpiRNA、ウイルスのRNAとホストlncRNAの相互作用、そのほか応用よりの核酸医薬の話もあります。新型コロナウイルスのおかげ、と言っては誤解を招くかもしれませんが、あの忌まわしき感染症の流行をきっかけにウイルスのことを改めていろいろ調べてみて、まだこんなにわからないことがあったんだ、ウイルスってこんな巧妙なことをしているんだ、ということに感銘を受けた方も多いかと思います。平成初期、僕が学生の頃の電話帳(ほぼ死語)教科書のGene、いわゆるMolecular Biology of the Geneは二巻構成で、第二巻には真核生物のウイルスの驚くべき多様性、という分厚い章がありました。まだその頃はプリオンの正体も明確には書かれておらず、ウイロイドについてもほとんど記載はなく、ウイルスは謎に満ちた世界という印象があったのですが、その後爆発的に研究が進み、上下巻が統合された第5版からは、ウイルスの記述自体が激減してしまいました。ウイルスのことは調べられ尽くしたのだろうな、もうウイルスの研究からは新しいことは出てこないのかな、などと、第5版の教科書を手に取ったときは浅はかなことを思っていましたが、ところがどっこい、生物は奥深い。今でもまだまだ最新の話が出てくるのを見ると、生物の多様性とそのしなやかさ、したたかさは無限大だということを思い知らされます。ライトノベル風に言うならば、ウイルスが持っているRNAのポテンシャルを僕らはまだ知らない、です。
というわけで、ずらりと並べてみるとなんじゃこりゃー!というぐらいパラレルにRNA/IDR関係の話があって嬉しい悲鳴ですが、研究者のコミケ。大いに楽しんで来ようと思います。
12/3 理研シンポジウム・第2回Kansai RNA Club
Architecture and Function of Biological Assemblies
12/4
[1AS-02] 相分離生物学の再検討
[1AS-07] 神経機能におけるタンパク質/RNA恒常性の破綻
[1AS-10] 非コードRNAが形成する作動装置とコンデンセートの先端解析法
[1AS-11] 動的高次構造体を介した遺伝子発現制御
[1PS-14] 機能性ノンコーディングRNAが制御する生命機能
12/5
[2AS-07] 転移因子コードが誘導する3次元核内構造形成
[2AS-17] 長鎖非コードRNAの機能発現プログラム-lncRNAと結合タンパク質の分子生物学-
[2PS-10] アジアにおけるRNA-核蛋白質複合体分子生物学の最前線
[2PS-13] カタチをとらないバイオポリマーの機能と起源~非ドメイン生物学
12/6
[3AS-02] 生体分子凝縮体を介するストレスへの適応機構
[3AS-10] mRNA翻訳に支配される生物・疾患
[3PS-03] RNAが織りなす生命現象の新展開
[3PS-07] RNAとウイルスの相互作用
[3PS-17] mRNA翻訳ネットワークによる真核生物の生命制御
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