#20の大迷走(1)
UGS148、またの名を6330403K07Rik、うちのラボでは通称「#20」の仕事、10年ごしでようやく世に出すことができました(論文はこちら)。ほんの思いつきで始めた仕事は苦労しますよ、とも、どんな謎でも必ず解けるものですよ、ともとれるような、いろんな教訓てんこ盛り、長い長い紆余曲折を経た仕事でしたが、とりあえず一連の仕事で経験したこと分かったことを論文化して問題提起することができてホッとしています。とにかく予想外のことの連続で、その経緯をちょっとまとめてみようかと思います。
ことの発端は、今を遡ること11年前、新学術「非コードRNA領域」の公式ブログに寄せられた泊さんのこちらのエントリーです。当時はゲノムから大量に転写されているlncRNAがまだ海のものとも山のものともわからず、RNA新大陸の発見だ!これからはlncRNAだ!という興奮に湧く人々がいる一方、ん、なに、それってただのノイズじゃないの?という冷めた目で見る人々も数多くいました。そのような状況の中、論より証拠、やっぱり変異体を作って表現型が出てくるようなlncRNAの例ををどんどん増やすのが一番だよね、ということで、とにかく発現量が多いlncRNAに絞ってひたすらノックアウトマウスを作って解析していれば、そのうちうっしっしとニヤリとできる宝物に出会えるんじゃなかろうか、という安直な考えでスタートしたのがこのプロジェクトです。
とは言え、発現量が多いlncRNAと言っても、それなりに数はたくさんあります。ゲノム編集技術が進歩してポンポコ変異マウスを作れるようになった現在とは異なり、技術的な支援は理研CDBの変異マウスチームが強力にバックアップしてくれるにせよ、当時は何でもかんでも作りましょうよというわけにはいきませんでした。それなりに本命に絞るため、手元にあったエクソンアレイのデータを参考に、神経系で発現量が多いputative lncRNA(FANTOMプロジェクトでXXXXXRikというアノテーションがついている遺伝子)をまずは片っ端から選んでin situ hybridizationを行い、核に局在するものを選ぶことにしました。ちょうどそのころ奈良先端の影山裕二さん(現・神戸大)や理研の中村輝さん(現・熊大)が「lncRNAと思ってたらペプチドだったよ」論文をどかん、どかんと打ち上げていていて、細胞質に局在する転写産物はlncRNAではない可能性が考えられたというのが1つ目の理由。また、スプライシングされた転写産物は速やかに細胞質へと輸送されるのがデフォルトなので、核に局在しているのであれば特殊な(未知の)制御を受けている(であろう)、というのが2つ目の理由です。
実際にFISHをしてみると、核に局在するものがあるわあるわ。細胞質に局在するものの中にも面白そうなものはあったのですが(実際それらの中には後にスターダムを駆け上がるNoradやらcircRNAやら含まれていたのでもっとopen mindにかまえていればよかったのかもしれませんが)、初恋Gomafu以来核内RNA首ったけだったので、特に明るいシグナルが見えた6330403K07Rik、プローブの番号でいうと#20に的を絞ることにしました。Allen Brain Atlasのデータを見ても確かにきれいに核に局在していることが確認でき、これはなかなか面白そうということで、KOマウスの作製や細胞に発現させての機能解析を開始しました。
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