ミジンコの一生

幼児期、成人期に相当するミジンコ
突然ですが、ミジンコの寿命ってどのくらいだと思いますか?実は、よく聞かれる質問です。研究室に用いるミジンコは、研究目的に応じて4週目以降の産卵数が減ってきた個体は研究から引退(処分)させることが多いですが、飼い続けると2ヶ月ほどは生存します。たくさん餌を与え成長と繁殖を促進した場合、一度に30個以上、3日に一度のペースで卵を産み続けるため、これらへのエネルギー投資が大きくなり、寿命は短くなります。一方で、餌を少なくしたり水温を下げて活動を抑えると長生きします。
このように太くて短そうなミジンコの一生を人間と比較するとどうなのでしょう?こんなことが頭によぎり比較をしてみました。ミジンコでは、寿命を便宜的に75日と仮定しました。実際には条件によっては100日以上生存する個体もいます。人の寿命としては医療が発達する前の人生50年を寿命としてみました。
生まれて3日後は、仔ミジンコが母親から泳ぎ出てくるタイミングです。この頃は、幼児期に相当。そして、15日齢まで生きると人で言う青年期に入ります。そして、成人期に相当する21日あたりは私たちが卵回収に用いる繁殖が盛んな時期で、ミジンコにおいても生命力のピークを感じます。確かに、写真を見ると生後3日ではまだなんとなく顔が幼く、成人期に相当する21日付近ではどっしりとした何か貫禄を感じてしまうのは、私だけでしょうか……。少しずつ弱ってくる30日以降に人でいう壮年期の入り口に入り、50日齢から60日齢で中年から初老期となり、その後老齢期へと移っていきます。適当に照らし合わせただけですが、人の一生と比べてみると水槽の中で泳いでいるミジンコを見る目も変わりますね。
ところで、荒川さんのブログでクマムシ国際会議についてご紹介されていましたが、ミジンコにもCladoceraと呼ばれる国際会議が1985年より概ね3年に一度行われています。Cladocera は分類群の名称で「ミジンコ目」という意味です。昨年イタリアのヴェルバーニアで行われた12回目の会議に参加し、本領域で研究しているミジンコの性決定遺伝子の発現制御について発表をしてきました。するとそこで、高齢のミジンコで一度低下した繁殖が100〜150日齢で回復するという報告が……。これらの回復個体では、老化関連の遺伝子発現パターンも若年型に戻るそうです!さらに、この高齢での繁殖は寿命を縮める終末投資ではなく、回復後の生存はむしろ長くなる傾向が見られたとのこと……。論文としても発表されていました(Dua ら, GeroScience, 2024)。
「来し方行く末」という今回のお題とは関係がなくなってしまいましたが、少し関係があるとすれば、実はミジンコは1世紀以上前には医学の基礎研究にも用いられていたということでしょうか。食細胞説の発見者であり、免疫学の祖として知られているノーベル生理学・医学賞(1908年)を受賞したメチニコフによって、ミジンコ体内の食作用が研究されていたのです。時を経てミジンコの底知れぬ長寿パワーの理解が進めば、将来的には私たちの加齢メカニズムの理解や健康寿命研究にも利用できるかも!?