続・4.5SHは蜜の味(3)最強軍団熊大パワー
熊大CARDの生殖工学の技術講習会は、5日間かけて、精巣上体尾部の取り出し、精子の凍結保存、過排卵をかけたマウスの卵管からの卵子の採取と凍結、新鮮精子の採取、人工授精、2-cell胚の凍結と融解、胚盤胞の子宮移植、2-cellの卵管移植、と、生殖工学の基礎技術を学んでいきます。難易度の低いものから高いものへと段階を踏んで学べるようにプログラムが組まれていて、全て実演を見たあとで実際に自分で手を動かしながらやるほか、受講者2、3人に一人ぐらいの割合で指導者がついてくださるので、初心者でも安心。作業の間には座学もあって、学問的な背景もみっちり学ぶことが出来ます。僕自身はマウスのラボの出身ではなく、マウス関連の実験はすべて我流、というかニワトリ流でやっていたのですが、餅は餅屋、そうかここはこうするものなのかと、納得することしきり。学生さんや若い技術員の方々の中に不惑をとっくに過ぎたおっさんが混じっているのは気恥ずかしいところもあったのですが、右も左もわからぬまま次から次へと新しい景色が開けていく感覚が懐かしく、20年ぐらい若返って学生時代に戻ったような気持ち。青春とは心の若さである、とはよく言ったものです。
で、確か中日あたりの昼休みだったか、ふと、学術変革非ドメイン生物学の前身の、新学術ネオタクソノミのそのまた前身の、新学術非コードRNAマシナリーでlinc-p21の変異体の研究をされていた荒木喜美さんが同じ建物の上の階にいることを思い出しました。lncRNAの変異体の研究をしている人はみな同じ洗礼(発現パターンは魅力的だけれどもKOマウスはno phenotype)を浴びることが多く、共に艱難辛苦を味わった同士、戦友、心の友、ではないですが、妙な親近感があって、学生時代の下宿襲撃のノリで、階段を上がってドアをこんこんと叩いてしまいました。おそらくお会いしたのは非コードRNAマシナリーの最後の班会議以来、4年ぶりぐらいだったかと思うのですが、アポ無しでお部屋を訪ねたにも関わらず、しかもラボのスタッフの方とのディスカッション中だったにも関わらず、あらまあお久しぶりといつもながらのニコニコ笑顔でお時間を取っていただき、lncRNAのノックアウトマウスって表現型でないですよねえ、培養細胞のノックダウンで見えてる表現型、あれってほんとうなんですかねえと、よもやま話をしている中で、ゲノム編集、やっぱりすごいよね、という話題になり、僕自身はiGONADのことを想定して話をしていたのですが、ふと荒木さんが、
「ゲノム編集ってすごいよね。メガベースぐらいのdeletion、全然いけますよ〜」
え?そうなの?
古典的なES細胞の相同組換えを利用したノックアウトマウス作製では大きなdeletionを作るのは意外と難しくて、僕もGomafuの変異マウスを作るとき、partial loss of functionになるのが嫌で全長を抜こうとしたのですが、神戸理研CDBの超速マウス作製チームの方からも、最長不倒距離は数kbぐらいですかね、一発で抜くのはちょっと難しいかもしれませんね、ということを伺っていました。なので、Gomafu遺伝子の5’側にloxをノックインしたマウスを作り、3’側にloxをノックインしたマウスを別途作り、減数分裂期の相同染色体が対合する時期に発現するSycp1プロモーターでドライブしたCreを発現するマウスと掛け合わせて相同染色体間でlox組換を誘導するTAMEREなるクソ面倒くさい手法を用いて約15 kbにわたるGomafu遺伝子全長の欠失変異体を作っていたのですが、な、なんと、Mbを超す、まさに桁違い、いや桁桁違いのdeletionが一発なんて作れるなんて、鼻から牛乳を通り越して目から牛乳電撃ネットワークです。
4.5SHはmulti copy遺伝子で、染色体6番にタンデムクラスターを作っていることは知られていました。しかしながら、あまりにもリピートの数が多く、最新ゲノムでも真ん中の配列はNNNNNN。ゲノム中のコピー数を予想した論文はありましたが、そのクラスターが一体どれぐらいの全長を持つのか、そもそも6番染色体にしかないのか、その他の染色体でもクラスターを作っているのか、全く分かっていませんでした。4.5SHがマウスで一番コピー数の多いレトロトランスポゾンSINEB1由来であることを考えると、6番染色体のクラスターを潰すだけではダメかも知れません。そんなこんなで、4.5SHのノックアウトマウスを作るのはあまり現実的ではないと僕自身は二の足を踏んでいたのですが、4.5SH愛では世界で誰にも負けない石田くんが、新天地に旅立つ直前にTALENで欠失変異細胞を作ろうとしていたことを思い出し、
「荒木さん、4.5SHというノンコーディングRNAがでっかいクラスター作ってるんですが、これって変異マウス作れますか?」
と恐る恐る切り出したところ、
「おもしろそうですね。できますよ。やってみましょうか。」
と二つ返事でご承諾いただけました。こうして、CARD講習会に申し込んだときには思いもしなかったことですが、思い出の場所熊本にて4.5SH研究が再起動しました。当時のBbsIは-20ºCに置いとくと失活するなんていう聴いてなかったよー案件で僕自身が関わったgRNA発現ベクターづくりにはクソ手間取ったりしていましたが、ターゲッティングベクターは荒木さんの方でサクサクっと作ってくださり、ドアをこんこんしてわずか半年後にスクリーニング用のESのDNAがやってきました。そこでPCRのgenotypingをしてびっくり。
な、なんじゃこりゃ〜!
ほとんど全てのESクローンで当たりの組換が起きているではないですか。これ、MBクラスのdeletioinですよ。短いdeletionでもせいぜい5%の組換効率がMaxだった頃に比べると、隔世の感があります。そしてrandom integrationが起きていない細胞を選び、当然のようにキメラが生まれ、そして当然のようにgerm line transmissionも確認できました。生殖工学の長い伝統を持つ熊大パワー炸裂。最強軍団、熊大恐るべし、です。(つづく)
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