続・4.5SHは蜜の味(4)百折不撓の末の光明と迷走
KOマウスを初めて作った最愛Gomafuの時は、どういうわけかKOマウスは誰もがびっくりするような表現型を示すという根拠のない確信があって、ルンルン気分でembryoの時期から見ていきました。E9.5を解剖して正常、いやいやこれから異常が出てくるでしょうとE13.5で解剖して正常、まだまだこれからとP0を調べて正常、3wを調べて正常、adultの8wでも外見は異常なし、、、普通は離乳したタイミングでgenotypingしてメンデル比を出すのが常套手段で、なんでわざわざviableであることが分かったときにダメージが大きくなるようなやり方をしたのか不思議ですが、それが愛のなせる技なのでしょう。それ以来、Neat1でも(Nakagawa et al., 2011)、Malat1でも(Nakagawa et al. 2012)、UGS148でも(Takahashi et al., 2022)、Rab30asでも(未発表)、Mirlet7hgでも(未発表)、Chd3OS(未発表)でも、作れども作れども、KOマウスは見かけ正常。もう、明らかな表現型が出ないのには慣れっこになってしまっていて、4.5SHのノックアウトマウスの掛け合わせ実験は果報は寝てまて、ぐらいのつもりで、のんびりと進めていました。熊大の荒木さんのところからヘテロマウスのIVFの凍結胚を送ってもらったのが2018年の2月。そこから個体化して、一旦B6にバッククロスして、生まれてきたヘテロマウス同士を掛け合わせをして最初の一腹目の仔が生まれてきたのが2018年の8月。えらいのんびりしたスケジュールで怒られが諸方面から発生しそうですが、
ん?KOマウスおらん。
でもまだ1腹目。しかも産仔数3匹だけ。またどうせviableでしょと思うぐらいには達観、というかスレていたのですが、
9/24 2腹目 9匹中 KOゼロ
9/24 3腹目 5匹中 KOゼロ
9/25 4腹目 9匹中 KOゼロ
10/3 5腹目 4匹中 KOゼロ
ん、これ、もしかして喜んでいいやつ?つ、ついに春が来た??
このタイミングで、薬局実習から戻ってきた山本育子さんに、本格的に4.5SHプロジェクトに参入してもらうことになりました。
山本さんが研究室に配属されて最初に取り組んだテーマは、シナプスに局在する新規lncRNAを同定する!というものでした。海馬の初代培養からシナプスの分画→タンパク質と強固な複合体を作るRNAを精製→RNA-Seq→FISHでvalidationと進めていたのですが、いわゆる3′ UTRがextensionしたDOGSが取れるばかりで、目的のlncRNAを同定することは出来ず。このあたりが引き際ですかね、ということで、一旦そのプロジェクトはサスペンドし、半年近い薬局実習から戻ってきたところで、新しいプロジェクトとして4.5SHのKOマウスの解析をやってもらうことになったわけです。長らくラボを留守にしていたのでベンチでの実験を渇望していた、というわけでもないのかもしれませんが、怒涛の掛け合わせ実験の結果、どうやらembryonic lethalであること、しかも相当早い時期に致死になること、でも、blastocystぐらいまではKOマウスが回収できること、などを次々と明らかにしてくれました。また、熊大の荒木さんのところで4.5SHのKOのblastocystからES細胞を樹立してしてもらっていたので、それらを培養し、RNAをRNA-Seqに出し、これからというところで残念ながら時間切れ。2020年の3月に、新天地の民間企業へと旅立ってしまいました。
RNA-Seqデータが帰ってきたところでちまちま解析をしていたのですが、発現変動遺伝子はあまりにも多すぎて、結局良くわかりません。RNA-Seq解析あるあるです。以前の石田論文のノックダウンの実験では、4.5SHと相補的な配列であるSINE B1のアンチセンス挿入配列(asB1)を持つmRNAが細胞質へと漏出するという現象が見えていたので、total RNA、nuclear RNA、cytoplasmic RNAのRNA-Seq解析もしたのですが、ドライ解析で発現変動遺伝子にasB1が沢山含まれているかと言うと、そういう傾向は良くわかりませんでした。ただ、ノザンブロットを見ると、たしかに、細胞質でasB1を持つmRNA群のシグナルが強くなっていることはわかります。うーむ。どうなっているのだ。
2020年の4月からは新しい助教の栗原美寿々さんがラボに加入。10月からは新たに配属された中山雄太さんにも加わってもらい、総出でRNA-Seqのデータをよ色々ひねくり回していると、
– rRNAのA0切断断片がなぜか4.5SH KO ESで蓄積する。
– 3’のread-throughが全般的に増える。
– イントロンに張り付くリードが増える。
ということが分かってきました。でも、なぜ4.5SH KOマウスが死ぬのか、その分子メカニズムは結局のところ良くわかりません。むしろ真実から遠ざかっている気もする。
RNA-SeqのデータをqPCRで確認するというあまり生産的でない実験の繰り返しと、特に変化が大きい遺伝子周りの文献を読み漁るばかりで、ただただ時間が過ぎていってしまうばかりでした。これは前回の4.5SHは蜜の味でも経験したことではありますが、実験というのは、正しい道を歩んでいないと、それらしいデーターは積み重なってはいくものの、結局明確な答えは得られず。どんどん泥沼にはまりこんでしまうものです。まさに八方塞がりになりつつあった2021年の9月。事態は大きく動くことになります。(続く)
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